酒蔵探訪 01 2005年05月
「南郷」
合名会社 藤井酒造店
東白川郡矢祭町戸塚41
Tel.0247-46-3101 / Fax.0247-46-3610
https://www.yazawashuzo.co.jp/
▲代表社員 藤井健一郎氏
東白川郡矢祭町。福島県の南端に位置するこの場所は気候も温暖で、久慈川の流れや矢祭山など豊かな自然に恵まれた場所だ。伝統の酒「南郷」の蔵元、藤井酒造店は天保4(1833)年創業、170余年の歴史を持つ。
酒名の「南郷」は、奥州の最南端であることからとも、棚倉城の南側に位置したからともいわれるが、いずれにしても「人情こまやかな山辺の里」といった穏やかな雰囲気が漂う名前である。
代表社員である藤井健一郎氏は八代目。32歳の若さで先代より会社を任され、以来独自の手法で酒づくりに取り組み続けている。
▲蔵の内部
酒蔵の入口にある酒名を記した赤い大きな樽。実はこの下に井戸がある。この井戸は、健一郎氏が会社を継いで最初に行った改革だという。「酒は水が生命です。それまでも井戸水を使って酒づくりを行っていたのですが、よりおいしい水を求めて、何箇所か掘削したのです。そして、掘り当てたのが現在も使われている井戸の水です」久慈川に沿ったこの辺りはもともと良質の水で知られる場所。「南郷」もこの久慈川の伏流水を得て、よりおいしい酒になった。
「南郷」のモットーは「おだやかな酒と品質本位」。人手が必要だと思われるところはあえて機械化せず、丁寧につくられる。製造責任者である菊池朝三氏は健一郎氏と幼ななじみ。二人が中心となり、常により納得のいく酒づくりを目指している。
「こだわりの酒づくりを」と、地元の選りすぐりの場所での米づくりも始め、今年の秋からその米でのつくりも始まる。地元の水と米と空気でつくる、文字通りの地元の酒。「南郷」の酒は全般に端麗辛口で、口当たりがよいのが特徴。「南郷 吟醸 つう」は長期低温発酵で醸されたフルーティな香りと、辛口のあっさりとした味を兼ね備えた吟醸酒。「つう」が男性的であるとすれば、女性的なさわやかさを感じさせるのが純米吟醸酒「南郷 うらら」。やわらかな香りとなめらかな喉越しが楽しめる。また、今でこそ「ひやおろし」は珍しくないが、「南郷」では20年ほども前に「南郷 ひやおろし」を発売。いわば「ひやおろし」の先駆け的存在なのが「南郷 ひやおろし」である。さらに、生酒や長期貯蔵酒など、それぞれ特徴のある魅力的な酒があるが、「私が好きな酒、おいしいと思う酒をつくっているんです」と健一郎氏は言う。「自分自身がおいしいと思わなければ、人に薦めることなんてできませんよ」
(左から)
・南郷ひやおろし
・南郷吟醸つう
・南郷うらら
事務所に社訓が掲げられていた。
「自分が受けた行為で
嬉しかったこと、楽しかったことを
ほかの人にしてあげ、
自分がされて嫌だったことは
お客様には絶対しない」
とても穏やかな言葉で綴られた社訓は、健一郎氏の酒造りへの強くやさしい思いと、そして「南郷」の酒の味そのものに生きているに違いない。
最後に、これからの目標をうかがった。「まずは、日本酒の環境を改善しなければならないと思っています。安心して日本酒を飲んでいただけるように、さまざまな取り組みを行い日本酒の復興を図りたいですね。そして、次世代につながるよう、若い人たちに飲んでもらいたい。そのために何ができるか、それがこれからの課題であり目標です」
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