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酒蔵探訪 07 2005年11月

「東豊国 (あづまとよくに)」 豊国酒造合資会社


石川郡古殿町竹貫114番地
Tel.0247-53-2001 / Fax.0247-53-2070
http://azuma-toyokuni.com/

▲矢内定紀社長

 豊国酒造のある古殿町竹貫(たかぬき)には「鎌倉岳」という山がある。竹貫には昔、竹貫城があり、竹貫氏という豪族が住んでいた。その竹貫氏のもとに鎌倉から嫁いできたお姫様がいて、その姫が生まれ故郷を懐かしみ泣いていたのを見て、村人が「あの山に登れば鎌倉が見える」とつれていったのが鎌倉岳だという。豊国酒造では、この山に湧く水を酒造りに用いている。

 この地はまた、浜通りと中通りを結ぶ「御斎所街道」の通る道。大正初期まではいわきや常磐の塩や魚の輸送路として栄えていた。豊国酒造はその旧街道沿いに、天保年間(1840年代)に創業した。吉田松陰が嘉永4(1851)年にこの地で宿泊し、地酒のうまさを賞賛したと伝えられているように、旅人や商人など街道を通った多くの人たち、そして地元の農民もが、古くから豊国酒造の酒を愛飲し続けてきたに違いない。

▲写真中央奥が鎌倉岳

 現在の当主、矢内定紀氏は創業から数えて八代目。今も昔と変わらぬ伝承の古典醸法に則り、地元に愛される酒づくりを続けている。「東豊国は創業以来、地元の人たちに愛され、根付いてきた酒です。それはこれからも変わることはありません」と矢内氏。  豊国酒造では、徐々に減りつつある杜氏による造りを今も続けている。今年も三人の南部杜氏が来て、例年通りの作業が始まった。「単に酒を造り、売るということでなく、そこには人と人のつながりがあります。さらに酒を造る材料もあります。そんな酒造りに関わる人やモノの見える商売をしたいと思っています」

 だから「地産地消」にもこだわっている。地元産の「チヨニシキ」という酒米や、契約栽培による確かな米づくりもその一つだ。そして、自家精米を行う。そして水は、冒頭にも紹介したように鎌倉岳の伏流水。ちょっと硬めの水が、キレ味のよいすっきりした酒の味を造り上げるという。

 豊国酒造の酒はもともと辛口。「一番飲まれる酒だから、一番大切にしている」という普通酒の他、こちらも30年以上前から造っているという純米酒「超」、さらに新酒の味と香りが嬉しい生貯蔵酒「生きな酒」など、製品のラインナップも多彩。東北や全国の鑑評会でも優秀な成績を納める大吟醸「幻」や、うつくしま夢酵母を使った純米大吟醸「夢物語」、地元に伝わる「流鏑馬」を名前にしたにごり酒「流鏑馬」など、どれも地元を代表する銘酒ばかり。

 豊国酒造の酒蔵もまた、大きな門構えに白塗りの壁、大きな松の木が貫禄を感じさせる。土蔵の中は年間を通して温度変化が少なく、酒の貯蔵にも適している。もちろん、製品によっては冷蔵、冷凍による保管・管理も行い、まさに昔ながらの良さを踏襲しつつ、今の時代、さらには次の時代へと継承していこうという思いが感じられる。

▲東豊国/大吟醸「幻」/純米酒「超」

 「地酒」という言葉はよく使われるが、豊国酒造におじゃまし、その酒造りの歴史と現在の造り、そして造り手の思いを伺って、「地酒」の本当のあるべき姿というものを感じた。「地酒」とは、単に「その地方で作られた酒」という物理的な括りではなく、そこある造り手と地元の人の思い、そして地域や素材など、さまざま要素があってこそのものなのではないだろうか。

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