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酒蔵探訪 12 2006年04月

「廣戸川」 松崎酒造店


岩瀬郡天栄村大字下松本字要谷47-1
Tel.0248-82-2022
http://matsuzakisyuzo.com/

▲松崎酒造店全景

 日本最大級の人造湖、羽鳥湖を中心に、キャンプ場やレジャー施設が点在する羽鳥湖高原。さらには1200年以上の歴史を誇る岩瀬湯本温泉や二岐温泉も有する天栄村は、四季折々、県内外の多くの観光客を魅了している。

 そんな天栄村で明治25年の創業以来、昔ながらの酒づくりを続けているのが松崎酒造店である。「廣戸川」という名は、地元を流れる釈迦堂川がかつて「廣戸川」と呼ばれていたことに由来する。

 現在の店主、松崎岩男さんは五代目になるが、ずっと地元の人に愛される酒づくりを継承している。酒づくりの中心は南部杜氏、板垣弘さんが担う。杜氏の引退などで杜氏による昔ながらの酒づくりを行う蔵が減る中で、ここでは変わらぬつくりを続けている。

▲店主 松崎岩男さん

 湖があり川も流れ、ここはもちろん水には恵まれた場所である。松崎酒造店では井戸による天然水を用いて酒づくりを行う。また、この天栄村は山林も多いが、釈迦堂川と竜田川沿いには日当たりのよい耕地が拓けている。つまり、よい米もとれる場所だ。ちょうど、蔵の周囲にも広々とした田んぼが広がっている。

 「水」と「米」に恵まれ、さらに杜氏、地元の蔵人と「人」の技によってていねいに醸す酒。それが「廣戸川」である。

 どの酒ももちろん大切につくられるが、「廣戸川」では“毎日飲む酒”、一般酒の酒質向上に力を入れてきた。飲みやすく、飲み飽きしない味を目指してつくられた「廣戸川 辛口」は糖類無添加。辛口の味に仕上げられている。まさに日常気軽に飲める酒として、燗でも冷やでもおすすめである。

 特定名称酒でもさまざまな試みを続けている。たとえば米も、酒造好適米にも種類があり、さらに栽培する場所によって特色がある。その米の特色を見極め、酒によって米を使い分ける。

 また昨年発売し、好評を博した純米吟醸「稲華(いなか)かたり」は、地元天栄村牧本地区で栽培された美山錦を原料につくられた無濾過の雫酒。天栄村の自然の恵みが生んだ酒である。

 大吟醸「廣戸川」は山田錦を原料に、まさに鑑評会で高い評価を受ける、味も香りも上等の酒。また、吟醸「千紅万紫(せんこうばんし)」はその名に相応しい色とりどりの花が咲いたような華やかな香りが広がる。他にも地元の湖の名を冠した「羽鳥湖」といった銘柄もあり、さらには季節限定の生原酒や冷やおろしなどもある。

 質の高い商品を、しかも種類も多くつくるということは、それだけ商品管理にも気を配らなければならない。松崎酒造店では貯蔵倉を設け、それぞれの商品に適した温度管理を行っている。

(左から)
・吟醸千紅万紫
・純米吟醸 稲華かたり
・大吟醸廣戸川
・廣戸川辛口

 地元を大切に、そしてより多くの人が日本酒を飲む機会が増えればと、観光客を意識した企画や若い人たちをターゲットとした独自の企画も展開している。たとえば旅館や地元商店などのプライベートラベルやオリジナルラベルの作成。宿で飲んだり、お土産に購入してくださった方が、リピーターとして注文してくださるケースもある。

 さらにブライダルの引き出物や、バレンタインなどのイベントに的を絞った商品提案もきめ細かに行う。地元小売店とも連携を図り、地域に密着した酒づくり、そして販売をしていきたいと言う。そして、「酒と人との出会いのチャンス」を増やすことが目標だ。

 「品質のよい酒をつくることはもちろん、その酒をより多くの人に飲んでいただくことができるよう、さまざまな提案をしていきたい」観光地という側面を持つ天栄村において、昔ながらの酒づくりを守りながら、時代のニーズにも対応していく。「廣戸川」は、地元にしっかりと根を張りながら大きく枝を伸ばす、そんな大樹を思わせる蔵元だ。

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