酒蔵探訪 17 2006年09月
「榮川」 榮川酒造株式会社
会津若松市駅前二番一号
Tel.0242-22-7530 / Fax.0242-22-3535
http://www.eisen.jp/website/index.html
▲磐梯工場
耶麻郡磐梯町。平成元年、磐梯山の西山麓、雄大な自然に包まれた場所に、榮川酒造は酒造りの新たな拠点となる「磐梯工場」を誕生させた。この工場誕生には、榮川酒造の酒造りへの思いが溢れている。
榮川酒造は、現在本社および本社工場のある会津若松市駅前に明治2年、市内の宮森文次郎酒造店より分家、宮森榮四郎酒造店として創業した。現在、会長を務める宮森久治氏が五代目、社長の優治氏が六代目となる。
「榮川」という名は、中国の故事『頴川(えいせん)に耳を洗う』にちなむという。世の中の穢れたことを聞いた耳も、この川で洗うと清められるという頴川に、「榮」の字をあて、飲む人に安らぎを与える清らかな酒を造りたいと名づけたという。
▲宮森久治会長
▲開放タンクでの櫂入作業
「日本は米文化の国です。そして、日本酒は米文化から生まれた“遺産”だといわれます」宮森久治氏は言う。「私たちはその伝統技術を守り、一層の磨きをかけて後世に伝えていかなければなりません」
久治氏は昭和の終わり頃、酒造りに欠かせないよい水と環境を求めて会津一円を歩いたという。「集落あるところに名水あり」と、訪ねたのが冒頭に紹介した磐梯町である。ここにはかつて法曹徳一が建立した慧日寺があり、4千人もの僧兵がいたという。実際に調査してみると、酒づくりに適した水がこんこんと湧き出てくる。ここに新工場を建設しようと決めた直後、この地の水が「龍ヶ沢湧水」として日本名水百選に指定された。日本名水百選に選ばれた後だったら、ここに工場を造ることはできなかったかもしれない。まさに運命的な出会いだったといえよう。
磐梯工場には、吟醸酒を含む高級酒を造る「福宝蔵」、主に一般酒を造る「昭和蔵」、そして将来バイオテクノロジーやハイテクの技術を活用し、高品質の清酒を醸造する「平成蔵」の三つの蔵が建つ。「どんなに合理化しても、酒造りには人の手をかけなければならない部分があります」榮川酒造では、酒造りの期間だけ蔵に入る杜氏ではなく、一年を通して酒を見守ることのできる社員中心の造りを進めてきた。今では杜氏の資格を有する社員も数人いて、伝統的手法も着実に受け継がれている。
榮川酒造の酒蔵では、タンクの上部が広く開く「開放タンク」を用いている。これは、泡の変化をよく見て、発酵の様子を確認するためだ。「日本酒は、酵母という微生物の力で醸されます。開放タンクでは、酵母の生き様を見ることができます」酒造りの季節、蔵の中は酵母が醸す酒の香りに満ちるという。
「私は、米の旨さを生かした豊潤な味わいこそが、本来の酒の味わいなのではないかと思います」と久治氏。榮川の酒は、清らかな飲み口でありながら、そんな米の旨みを感じさせる酒でありたいという。
(左から)
・ゴールド秘酎
・吟醸
・大吟醸榮四郎
創業者の名を冠した大吟醸「榮四郎」は、端麗な中にもまろやかさを持ち、まさに榮川を代表する酒だ。また、「純米吟醸」は山田錦100%使用。華やかな香りと純米ならではの深みがあり、しかも手頃な値段で味わえると人気。
他に純米酒や本醸造酒、生貯蔵酒、低アルコール酒などが揃う。低アルコール酒の「る・れーぶ」はアルコール度数7~8%。ワイン酵母を用いるなどの工夫を施し、フルーティーな香りの甘口の酒となっている。しかもカロリー25%オフ(同社一般清酒比)だというから、女性に支持されるのもうなずける。榮川の隠れた人気商品が焼酎「ゴールド秘酎」だ。オーク樽に三年以上貯蔵したもので、馥郁たる香りとなめらかな味わいにファンが多い。「モンド・セレクション」(世界食品コンクール)において金賞を受賞している。
森に囲まれ、静かに、けれど確かに酒を醸し続ける榮川磐梯工場。人と人をつなぐのが酒の役割の一つだが、榮川酒造の酒は飲む人に清らかな水を、雄大な自然を感じさせる、そんな人と自然をつなぐ役割も果たしてくれているのかもしれない。
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