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酒蔵探訪 18 2006年10月

「夢心」 夢心酒造株式会社


喜多方市字北町2932
Tel.0241-22-1266 / Fax.0241-25-7177
http://www.yumegokoro.com/index01.html

▲朝日稲荷に名を取った「朝日蔵」

喜多方市は、会津の北部に位置していたことから、「北方」と呼ばれていた。北には東北の名峰、飯豊連峰。東には雄国山麓が裾野を広げ、南には阿賀川、日橋川が流れる、文字通り豊かな自然に恵まれた場所である。ご存知のように蔵の町、ラーメンの町、さらにはそばの里としても知られ、年間およそ百万人もの観光客が訪れる。

夢心酒造を営む東海林家は、古くからこの場所で「奈良屋」の屋号で親しまれてきた。明治10年、七代目に当たる東海林萬之助が酒造業を創業、以来約130年、地元に根ざした酒造りを続けている。

「夢心」という名前の由来には、東海林家には以下のような話が伝えられる。酒造りを始めた前出・東海林萬之助は、日夜よい酒を造らんと、酒造りの研究に没頭していたという。そんなある夜、萬之助は夢枕で「我は朝日稲荷なり。汝の心がけ殊勝なり。酒造りの秘伝を伝授すべし」と、酒造りの方法を教えられ、早速その通りに造ると実に芳醇な名醸を得ることができたという。八方手を尽くして「朝日稲荷」の所在を探すと、現在の須賀川市にあることがわかり、萬之助は酒樽を担いで徒歩でお参りに出かけた。たどり着いた朝日稲荷でうたたねをしていると、やはり夢枕で「よくぞ参りしよ。汝の造る酒に『夢心』と名づくべし」というお告げを受けたという。3月弥生の空、満開の桜を見上げながら、萬之助は感動の涙を流したという。「夢心」という美しい名前の由来に相応しい、幻想的な言い伝えである。

▲東海林伸夫専務

▲蔵の内部

 「夢心の原料は、米も水もそして酵母も、オール福島産です」とは、東海林家十一代目となる東海林伸夫専務。原料米には、そのほとんどを喜多方市内の契約農家がつくる「五百万石」を用いる。水は言うまでもなく飯豊山の凄烈な伏流水。そして、酵母は「うつくしま夢酵母」と、徹底して「地元」にこだわる。夢心は、文字通りの「地酒」なのである。「純米酒以上の特定名称酒は全て五百万石で造ります。他の米を使うことも考えなくはなかったのですが、杜氏が五百万石で行くことを決めました。その結果、3年連続全国の鑑評会で金賞を受賞するなど対外的な評価をいただき、『五百万石でいける』という自信を持つことができました」地元の恵みである原料と杜氏の技術、その二つが見事に組み合わさることで、「夢心」が醸されるのである。

 夢心酒造ではまた、商品管理も徹底している。火入れのタイミングや瓶詰め後の冷却、さらに全商品低温貯蔵など、特に温度管理には気を配っている。この温度管理の徹底のもと、今年4月からは特定名称酒の炭ろ過を一切廃止した。無ろ過ならではの、米の味がより生きた酒になったという。

 そんな夢心の酒は、「決して華やか過ぎず、米のうまみを第一に考えた酒」だという。きれいだが、米の味のある純米大吟醸。昔懐かしい味わいの純米酒「夢の香」。自慢の純米酒は冷やでもおいしいが、ぬる燗にすれば、ふんわりとしたやさしい味になるという。

 また、夢心酒造では、より高品質な食中酒を目指し、平成10年に「奈良萬」銘柄を誕生させた。この「奈良萬」、昨年3月に雑誌「danchyu」で「鍋大賞」に選ばれた他、「一個人」「週間ダイヤモンド」などの日本酒特集などに取り上げられ、高い評価を得ている。

 東海林専務は言う。「日本酒離れが言われて久しくなりますが、まだまだ光はあると思います。酒の会などを開くと、若い方もたくさんいらっしゃいます。日本酒は昔と違い、量より質の時代になったのではないでしょうか。おいしいお酒を飲む機会を増やし、少しずつでも日本酒のファンを増やしていきたいと思います」夢心酒造では県内外で積極的に会合を開き、夢心の、引いては日本酒の魅力を伝える活動を行っている。その手ごたえも徐々に感じているという。

(左から)
・純米酒 夢の香
・純米酒
・純米大吟醸

 夢心が目指すのは「米のうまみのあるきれいな酒」。そして目指す造りは「きっちりしたぶれのない造り」。この春、純米酒、吟醸酒のラベルの「夢心」の書体を変えた。東京の書道家の手によるものだが、その書道家は夢心の酒のやわらかさを表現したという。創業者・東海林萬之助が春爛漫の朝日稲荷で告げられた「夢心」の名前に相応しい酒が、今年も醸される。

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