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酒蔵探訪 24 2007年04月

「吉の川」
 合資会社吉の川酒造店


喜多方市字一丁目4635
Tel.0241-22-0059 / Fax.0241-22-0791

▲趣ある蔵

 「本当の地酒」喜多方市の吉の川酒造店の酒は、一言で言えばそう呼ぶのが相応しいように思う。

 吉の川酒造店を営む冠木家では、当主は代々「吉郎次」を襲名してきた。初代は江戸末期に分家し、油などを商っていたが、明治3年に二代目吉郎次が酒造株を取得し、酒造りを始めた。「吉の川」の名前は、吉郎次の「吉」の字をとったもので、ラベルの特徴ある髭文字も地元に愛され続けている。

 吉の川酒造店の歴史を振り返る時、特筆すべきは五代目の房八氏ではないだろうか。「うちでは代々、地元喜多方全体でよい酒造りを目指してきました」と言うのは、七代目となる冠木孝専務だ。「私の祖父である五代目も、醸造技術の向上を目指し、さらに地元の酒の改良のために尽力したと聞いています」この房八氏の努力は実を結び、吉の川に大きな名誉をもたらす。昭和11年に受賞した「名誉賞」である。この賞は、隔年に開かれていた全国の品評会で3回連続入賞した蔵元に贈られるもので、福島県内で受賞した蔵は二つしかない。「祖父がこの賞を受賞して喜多方に戻って来た時には、駅前で大勢の人が迎えられ、祝賀パレードが行われたそうです」と、冠木専務。

▲冠木孝専務

▲整然とした蔵の内部

 吉の川の酒造りには、そんな代々受け継がれてきた情熱とこだわりが生き続けている。地方の蔵元の多くが吟醸や大吟醸などの特定名称酒に力を入れ、首都圏など広く全国にその販路を開く中で、吉の川はそのほとんどを地元、しかも喜多方で販売している。

 「地元で売る」ということは、「地元で認められる」ことである。地元の人に、毎日の晩酌に飲んでもらう酒こそが吉の川の目指す酒だ。醸造する酒の七割が普通酒であるのもそのためである。

 「地元を大事にしたい」と専務が強く意識したのは、まだ家業である酒造業を継ぐかどうか迷っていた頃のことだという。「全国どこに行っても、大阪の人がいるんですね。そして、どの大阪人も関西弁を堂々と喋り、地元大阪の食べ物などの自慢をするんです。それを見て、自慢できる故郷があるのはいいなと思いました。自慢できる故郷を作りたいと」

 吉の川では、米はほとんど地元の米を用い、それを自家精米する。もちろん水は飯豊山の恵み、豊かな伏流水だ。明治、大正時代に造られた蔵では、ほとんどの工程が昔ながらの手法で行われる。燃料こそ変わったが昔ながらの釜を用い、強い蒸気の釜でふかす。麹もすべて手作り。酵母も香りが違うという泡の立つ酵母で、その泡を消すのも人力で行う。全ての作業に手を抜くことがない。「手をかければかけるだけ、味に跳ね返ってくると思っています。また、機械では見極められない細かな部分は、やはり人間の目で見て判断することも大切です」と専務。一旦造りに入ると、蔵人は泊り込みで作業に当たるという。

▲しぼりたて生酒原/純米酒/普通酒

 そんな、まさに蔵人が心血を注いで醸した酒は、キメの細かさと香りの良さに定評がある。

 普通酒も、酒造好適米を七割以上用いるなど、原料からして気を配る。また、純米酒は契約栽培で作られた低農薬の五百万石を原料にしており、清酒鑑評会に2年連続入賞するなどこちらも評価が高い。しぼりたて生酒原酒は、12月のまさに寒のさなかに仕込む、人気の商品である。

 「昔から『酒屋万流』と言われ、それぞれの蔵元にそれぞれの造りがあり、それぞれの味があります。酒の原料は米と水と単純ですが、二つとして同じ味の酒を醸す蔵元はありません。それだけ目に見えない部分が大きいということだと思います。私は今の造りを変えることなく、ていねいな酒造りをしていきたいと考えています」

 地元の原料をていねいに地元で醸す。そして地元の人に愛され、地元の人の誇りになる。これぞ「本当の地酒」と言えよう。

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