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酒蔵探訪 25 2007年05月

「稲川」「七重郎」
 合資会社稲川酒造店


耶麻郡猪苗代町字新町4916
Tel.0242-62-2001 / Fax.0242-62-2167
https://sake-inagawa.jimdo.com/

▲塩谷秀一 社長

 磐梯山を背に、眼前に猪苗代湖が広がる猪苗代町。その町中にある稲川酒造店は、嘉永元(1848)年の創業。150余年、この地で酒造りを営んできた。

   「宝の山」と謡われた秀峰磐梯山麓という恵まれた地にあって、その伏流水は酒づくりにとって、まさに「宝の水」だ。「稲川」の名も、日本酒の命である米を「稲」、磐梯山の伏流水を「川」に託し、命名したという。社長の塩谷秀一さんは、五代目となる。

 創業以来「旨い酒を届けたい」という思いは一貫して変わらない。あくまでも手作りにこだわり、蔵人が結束して酒造りに打ち込んでいる。蔵人を仕切る杜氏を務める阿部さんは30代前半と若い。27歳の時に前杜氏が倒れたことから急遽責任者となった。それから5年、常にまっすぐに酒造りと向き合う。「酒造りに人造りは欠かせない」と塩谷社長。若い杜氏のもと、チームワークには自信があるそうだ。蔵人は全員地元の出身。郷土を愛する気持ちも、優れた地酒を生む重要な要素なのかもしれない。

▲外観

▲蔵の内部

 米と水を「酒の命」と言う稲川では、その原料の魅力を熟知し、最大限に活かす酒造りを行う。自慢の水は軟らかな水で、きれいな酒を生み出す。米は平均精米歩合58%と、磨きぬいて用いる。

 そんな蔵の精進と選び磨いた原料で醸した酒は、着実に高い評価を得ている。福島県が開発した酒造好適米「夢の香」100%を県産酵母「うつくしま夢酵母」で仕込んだ純米吟醸「夢の香」は、見事県知事賞を受賞している。

 また、伝統に則り、伝統を守りながら、新たな挑戦も常に行っている。人気のにごり酒も、取り組んだのは他の蔵よりかなり早かった。発酵が完了する直前のもろみ中の米や麹の粒を細かく砕き、目の粗い布で漉した、昔懐かしい味わい。にごり酒原酒はより濃醇でまろやかな甘さが特徴だ。

 さらに、昨年末に発売した「琥珀の輝き」は、『秘蔵』と呼ぶにふさわしい長期熟成酒。平成元(1989)年に醸造したにごり酒原酒を熟成、独特の香りと旨みを持つ。「20年近い年月が生んだ酒です。」と塩谷社長。にごりはなく、琥珀色に輝くその酒は、甘さと酸味が絶妙のバランス。「シェリー酒のようだ」と評した人もいるという。

 創業以来の銘柄「稲川」に加え、第二銘柄として4年前から「七重郎」を冠した無ろ過の原酒を造っている。「七重郎」は、当主が代々襲名してきた名前。その名に恥じぬよう、先祖に誇れるような酒を、という思いを込めたというだけあって、こだわりも強い。青いラベルの「特別純米酒無濾過生原酒」と、赤いラベルの「純米吟醸無濾過原酒」の二種は、いずれも限定販売品となる。

▲琥珀の輝き/七重郎/にごり酒

 稲川では、蔵の見学も行っている。これからの観光シーズン、「磐梯山の地酒」を楽しみに立ち寄る人もいるに違いない(見学は4月~11月、午前9時~午後4時30分まで。できれば事前に予約を)。また、先ごろ、事務所の一部に試飲コーナーを設けた。

 酒は生き物。だから、赤ん坊を慈しむように酒を醸すという。「平成元年に級制が廃止されて以降、日本酒は少量多品種の時代を迎えました。そんな時代の中で、私たちも伝統を守りつつ、常にお客様に『おいしい』と言っていただける酒造りを目指していきたいと考えています」と塩谷社長。

 山と川の恵み、そして蔵人の熱意が生む地酒は、まるでその地や人の恵みを還元しているかのようである。

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