酒蔵探訪 26 2007年06月
「宮泉」 宮泉銘醸株式会社
会津若松市東栄町8番7号
Tel.0242-27-0031 / Fax.0242-27-0032
http://www.miyaizumi.co.jp/
▲蔵の外観
会津の歴史を今に伝える鶴ケ城。そのすぐ北側に蔵を構えるのが、宮泉銘醸である。取材に伺った日は平日にもかかわらず観光バス数台を含め、多くの観光客が見学に訪れていた。休日ともなればさぞやにぎやかになるであろうことは、想像に難くない。
宮泉銘醸の創業は昭和29年。現社長、宮森泰弘氏の父、啓治さんが、同じ会津若松市内にある花春酒造から分家創業した。「宮泉」という名は、酒の仕込みに使われている水の質を象徴している。磐梯山の伏流水である当家の井戸水は、日本酒発祥の母ともいわれる名水「宮水」に極めて近い水質を示すことから、古くから「宮泉」と呼ばれてきた。また、中国の名筆欧陽詢の詩「九成宮醴泉銘」にもちなみ、「宮泉」の名をつけたという。
宮泉では、常に地元を中心に考えた酒づくりを行っている。水に加え、米は地元で契約栽培を行う。昔ながらのつくりに則り、温度管理・品質管理を徹底するため、冷蔵・冷凍庫も導入し、伝統的な技法と新しい技術をうまく組み合わせて、よりよい酒づくりを目指し続ける。
▲宮森義弘氏
▲会津酒造歴史館の内部
「地元の人に愛される酒蔵を目指したい」と言うのは、現在取締役社長室長の肩書きを持つ宮森義弘氏。「会津の人に『地元で飲むなら』と言っていただける酒が目標です」そのために、常に地元の声を生かした商品開発を行ってきた。
商品ラインナップとしては、超辛口「会津宮泉 鬼ごろし」は、昭和59年に発売。日本酒の辛口ブームに先駆けて登場したこの酒は「宮泉」の代表ブランドとなった。さらに、日本初の南極の氷で仕込んだ「南極のしずく」(昭和62年)も話題を呼んだ。
焼酎「玄武」も宮泉の人気商品の一つである。こちらは日本酒の蔵元の焼酎らしくと、すっきりした中に米のうまみを引き出した味わいが特長だ。昨年には「麦玄武」も発売。麦焼酎の旨みに米の味わいも生かした、酒どころ会津ならではの麦焼酎と、こちらも好評だ。
正統派には純米大吟醸「写楽」がおすすめである。芳醇、旨口。すっきりしているが旨みのある酒だ。
酒蔵に見学者を受け入れている酒蔵は少なくない。しかし、実物大の人形が酒造りを再現するなど展示にもこだわり、試飲コーナーには酒以外の地元産品の試食販売コーナーも設け、さらには案内係員を配する。そこまでしっかり観光客を意識している酒蔵は少ないだろう。それができるのは、鶴ケ城の門前という恵まれた立地にも寄るが、やはり蔵元の決断は大きい。
泰弘社長が蔵を継ぐ際に決めたのが「観光と醸造の共存する酒蔵」だった。昭和55年に開館した「会津酒造歴史館」は、平成6年には年間入場者数が30万を超えた。
▲宮泉 鬼ごろし/麦玄武/写楽
白壁の蔵は会津藩家老、山川邸跡を含む地に大正時代に建てられた酒蔵を取得したもの。駐車場には山川健次郎や捨松ら兄弟の生誕の碑もある。見学者は酒造りの流れや古い道具類とともに、会津らしい風情をもこの地に感じることができるのではないだろうか。そして、帰りには試飲とお土産の購入。ここで小一時間を楽しく過ごすことができる。
観光客の受け入れは、酒蔵にもよい影響を与えたという。新たな商品開発も、観光客のニーズによる部分も大きい。商品開発とともに、常に酒質の向上を目指す姿勢が蔵には根付いた。観光客をはじめ、酒への反応を目の前で見ることができるからだ。「いい酒をつくりたい」蔵人が皆、その思いを共有しているのだ。蔵には若いスタッフの活気が漂う。杜氏も4年前に南部杜氏の引退を機に、社員である箭内和広氏が、南部杜氏の免許を獲得し、宮泉の酒造りを継承した。
時代が変わり、酒へのニーズは変わっても、その流れを受け止め、応えようとする酒蔵の思いは変わらない。昔ながらの酒づくりを忘れることなく、常に今を見つめる。宮泉はそんな酒蔵ではないだろうか。
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