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酒蔵探訪 32 2007年12月

「金水晶」
 有限会社金水晶酒造店


福島市松川町字本町29
Tel.024-567-2011 / Fax.024-567-5449
https://www.kinsuisho.com/

▲金水晶の蔵

 福島市松川町は、かつて「八丁目の宿」として旅籠などが立ち並んでいた場所。ここに旧国道に面して、趣ある外観を呈する酒蔵「金水晶」。当主である斎藤家は、先祖をたどると関東地方の武士の出だそうで、福島に移り住んでからも、伊達政宗に召し抱えられ、二本松城、会津城などに攻め入った際の功績により長脇刀を拝領したこともあるという。

 その後農業や旅籠を営んできたものの、明治維新を迎え、交通手段の変化などから「八丁目の宿」が衰退したのを機に、「金水晶」初代・金次郎が酒造りを始めた。明治28年のことである。これが近郷近在の評判となり、さらに全国酒類品評会で金賞を受賞するなどその酒質も高く評価され、「金水晶」は大きな発展を遂げた。「品質を第一に考え、地元の人に愛される酒を造る。この姿勢は創業以来、現在に至るまで全く変わることのないものです」そう話すのは三代目となる斎藤正一氏。福島酒造組合長や福島県清酒流通共同組合監査理事など業界の重積を歴任した他、地元でもさまざまな団体の代表を務める名士である。

▲斎藤正一 社長

 「金水晶」の名も、地元と深い関わりを持つ。松川には戦前まで金を産出していたという金山があった。そして、その金鉱脈から湧き出る水は「水晶沢」へと注いでいる。明治天皇行幸の際にこの水を献上したという名水である。金山と沢の名をとり命名された「金水晶」は、もちろんこの名水で仕込まれる。

 「金水晶」の酒づくりは、やはり地元の米、水、気候、風土、そして人を大切に行われる。地元で栽培した米を原料に水晶沢の水で仕込む。それを手がけるのは地元の杜氏をはじめとする蔵人である。

 12月、「金水晶」では『地産地消のヌーヴォー』「初しぼり」を出荷する。福島産の新米新酒である。毎年地元を始め、この新酒を楽しみにしている人も多いという。  自慢の大吟醸は山田錦を40%以下に精米し、杜氏が昼も夜もなく手間と技をかけて仕込まれた、いわば酒造技術の極限を追求した酒。全国清酒鑑評会でも例年のように入賞を果たす逸品だ。  他に純米酒、生貯蔵酒、純米吟醸など、いずれも酒造りの王道に則り、丁寧に醸される。

(左から)
・純米生貯
・純米生吟醸
・初しぼり

 斎藤氏はまた、地域活性化のためにさまざまなプライベート商品も製造する。旅館などのラベルはもとより、周辺市町村の観光地や名所、イベントをラベルにデザインしたものである。地元福島市の屋台村や愛宕陣太鼓、アジサイやクマガイソウ。さらに霊山、月館、コスキン・エン・ハポンに相馬野馬追いなど、斎藤氏自らデザインを手がけるものもあるという。「酒は人と人のコミュニケーションツールとして大事な役割を果たすものです。地域が、そして地域の人が元気になるお手伝いができればと思います」と斎藤氏。

 「日本酒は国際化、多様化、多品種といった時代を迎え、決して楽な状況ではありません。この厳しい中で、いかに消費者のニーズをとらえ、満足していただけるようにできるかが、これからの使命だと思っています」と斎藤氏は言う。「日本酒は、決してなくしてはならない文化だと思います。これからも地域社会に溶け込み、地元に愛される代名詞のような存在になれるよう努力していきたいですね」

 話を伺っていると、当主である斎藤氏自身が文字通り地元を愛し、熱心に酒造りに取り組む気持ちが強く伝わってくる。古来より伝わる伝統を重んじ、後に伝える。「金水晶」の酒はそんな大きな役割を果たすべく、地域に深く根ざした大木に、今年も大きな実をたわわに実らせる。

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