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酒蔵探訪 34 2008年2月

「出羽桜」
 出羽桜酒造株式会社


山形県天童市一日町1丁目4-61
Tel.023-653-5121
https://www.dewazakura.co.jp/

▲仲野益美 社長

 天から二人の童が降りてきたことにその名の由来があるという山形県天童市。将棋の駒の産地として名高く、さくらんぼやラ・フランスなどフルーツ王国としても知られる。

 この地に「出羽桜」が創業したのは、明治26年のことである。近江商人を先祖に、一族の分家には三つの酒造家がある中で、周囲の反対を押し切っての独立創業だったという。親や兄弟と競合しての酒造りで、初代仲野清次郎は杜氏や二代目を醸造試験所や灘の酒蔵に修行に出し、技術を学ばせた。創業当初より品質志向の酒造りを目指していたことが窺える。現在、四代目として蔵を仕切る仲野益美社長は、酒造りへの思いも、手法も創業当時から何も変わっていないという。

 年間8千石を醸し、全国的にも銘蔵として名高いこの蔵では、驚くほど「手作りの酒造り」を行っている。たとえばここでは、吟醸酒全量を一本一本「湯殺菌」している。これは香りと味を逃さないためで、他の蔵でも行われているが、全量というのはなかなかできないことだ。また、蒸しあげた米は昔ながらの木桶でかつぎあげるが、これも運びながら米の状態を確認するためだという。その他、麹の盛り換えや手作業での酒母の仕込み、櫂入れなど、いずれも蔵人の技術と経験がものをいう作業が続けられている。

▲天空蔵

▲天空蔵内の精米機

 しかし、新しい技術や機械化を一切拒んでいるわけではない。出羽桜では本社・醸造蔵とは別に、天童市内に精米所と大型冷蔵庫を設置した「天空蔵」を持つ。出羽桜の酒づくりの基本の一つは「米」にあるという。原料米は地元産をはじめすべて履歴がわかる確かな米。それをさらに選別し時間をかけて精米、さらに精米後は通気性のある袋でしばらく寝せる「枯らし」を行う。米にこだわる酒造りにおいて、自家精米は手を抜けない、目を離せない工程なのだ。

 また、低温貯蔵能力も出羽桜の自慢の一つだろう。天空蔵で出荷前の生酒を冷蔵保存する他、第1・第2酒眠蔵ではそれぞれ温度を変えて貯蔵、さらに醸造蔵内のタンクや冷蔵コンテナでさまざまな温度での貯蔵を行っている。

 昔ながらの手法を活かし、一方で新しい技術も取り入れる。これはすべてお客様に「旨い酒=出羽桜」と言ってもらえるためだという。

 『出羽桜といえば吟醸』と言う方もいるだろう。確かに吟醸酒の割合の高い蔵である。吟醸酒といえば、米をより削って仕込む、贅沢な酒というイメージがある。しかし出羽桜では、一般の消費者に飲める酒としての吟醸酒を目指してきた。「桜花吟醸酒」の前身となる「出羽桜吟醸酒」を世に出したのは昭和55年のこと。統一価格時代の当時、できるだけ安価で販売したいと、「2級酒」で売り出した。これは「中吟」と呼ばれ話題となり、出羽桜を吟醸酒のパイオニアたらしめたのである。「吟醸酒だけを良くするのでなく、スタンダードレベルの酒も良くする。吟醸酒は他の酒の犠牲の上にたった酒であってはならない」これは出羽桜のポリシーの一つだ。

 出羽桜を代表する「桜花吟醸酒」は、生酒らしい華やかな香りと味わいで好評を得続けている。また、出羽桜は商品バリエーションも豊富で、季節商品も多い。きりりと爽やかなにごり「春の淡雪」や、原酒ならではの重厚な旨みを持つ純米吟醸酒「出羽 燦々無濾過原酒」。また「出羽桜 吟醸缶」は、ガラスや紙製の容器が多い中で、軽く、中身の品質劣化もしにくく、さらに熱伝導率が高いので冷やしやすいといったアルミ缶の特性から採用したもの。濃紺の上品なデザインと3本縦に重ねるパックも新しい。

(左から)
・出羽桜「吟醸缶」
・春の淡雪
・出羽燦々無濾過原酒
・桜花吟醸酒

 「各メーカーが特徴を生かし、業界全体を伸ばしていかなければならないと思います」これからの日本酒について、仲野社長は言う。出羽桜はずっと地元・天童に主眼を置いてきた。地元の人に、一般消費者に「おいしい」と言ってもらえる酒を目指し、精進を続ける。その姿勢こそ出羽桜の特徴であり、魅力なのだ。

 天童ではぜひ、「出羽桜美術館」も訪ねてほしい。利益の社会還元をと設立された美術館で、先代社長が収集してきた古韓国、新羅、高麗、李朝期の陶磁器や工芸品、近代文人の書、日本六古窯などを展示している。平成5年には分館として斎藤一心の美術館も設立している。(開館10時~17時・毎週月曜休館)

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