酒蔵探訪 36 2008年4月
「吉乃川」 吉乃川株式会社
新潟県長岡市摂田屋4丁目8-12
Tel.0258-35-3000 / Fax.0258-36-1107
https://yosinogawa.co.jp/
▲川上浩司 社長
新潟県長岡市摂田屋。かつては関東と越後を結ぶ重要な街道「三国街道」の分岐点に位置し、中世には「接待屋」と呼ばれる僧や山伏の休憩所があったというこの場所には、もともと酒や味噌、醤油などの醸造業が集まっていたという。現在も大正末期の極彩色に彩られた道具蔵をはじめ、レトロな雰囲気が漂う町だ。
そんな摂田屋に、吉乃川の前身である若松屋が創業したのは天文17(1548)年のことである。交通の要所でもあったこの地だが、越後平野の扇の要、前方に信濃川を望み背後に豊かな山を控え、良質な水と米に恵まれたここが、酒造りに適した地であることは言うまでもない。
吉乃川の酒造りは、常に時代の先駆けを歩んできたといえるのではないだろうか。昭和36年に中越式機械製麹機を自社で開発。これによりそれまで24時間人の手による管理が必要だった製麹工程を、自動で行うことができるようになった。
▲吉乃川株式会社(左の建物が眞浩蔵)
▲中越式機械製麹機
さらに、昭和46年には仕込みの大型化に取り組む。これは、製麹機によって高品質の麹を大量生産できるようになったことと、グループ会社の技術によって純粋な酵母を大量に得られるようになったことによるもので、五百石の大型仕込みを実現した。大型仕込みによって酒質が安定し、さらに製造コストも削減できたという。
しかし、あくまでも吉乃川は450年を超える手作りの技を大切にし続けている。「物を動かす部分は機械で行いますが、それは自動化ということではありません。工程間をつなぐ情報は人間が管理します。あくまでも人間が判断をして酒質を決めています」と、自らが醸す酒に、そして酒造りに信念を伺わせる。
吉乃川の酒は、さすが米どころである、99%が県産米で醸される。実は残りの1%は「山田錦」なのだが、これは山田錦の酒がどんな出来になるか確認するために用いるのだという。また、仕込み水は「天下甘露泉」と呼ばれる地下水で、信濃川の伏流水とも山の雪融け水とも、そのどちらともいわれる良質で豊潤な水だ。「吉乃川」は、まさに新潟の自然の恵みが生み出す「新潟の酒」だ。
新潟は平成16(2004)年の新潟県中越地震、平成19(2007)年の新潟県中越沖地震と、近年二度の大地震に見舞われている。吉乃川でも2004年の地震では倉庫の一つの屋根が落ち、道具や瓶は散乱、タンクも固定ボルトが外れてあわや崩壊という状態だったという。また、2007年の地震では柏崎にある系列会社で被害を受けた。
そんな地震による被害もきっかけとなり、新たな仕込み・調合蔵「眞浩蔵」は誕生した。新蔵には、大吟醸の麹を手作りする吟醸室と中越式製麹機、そして最新の無通風製麹機の三つの麹室を導入した。無通風製麹機は、より大吟醸造りの麹蓋に環境を近づけたという。また、志向の多様化や高齢化、健康志向による多品種少量ニーズに応えるべく、中型の仕込みタンクも設えた。さらに、酒質に応じた熟成ができるよう、5度とマイナス5度という二つの冷蔵貯蔵設備も増強された。
(左から)
・厳選 辛口吉乃川
・吟醸 吉乃川
・吟醸 極上吉乃川 ※加盟店限定商品
「眞浩蔵(しんこうぐら)」の名は、清水寺の森清範貫主の命名。「眞」の字は「永遠、不変」を、「浩」の字は「つきることなく水がわくこと」を意味する。地震からの復興を果たし、450年を超える歴史の中で培ってきた伝統を守りつつ、新たに発展し続けることを願ってつけられたという。
吉乃川が蔵人自らの手で作り上げた「蔵人栽培米」を、やはり蔵人がその技術の粋を注いで醸した「吟醸極上吉乃川」は、さわやかな香りと透明感のある口当たりがまさに極上。瓢ラベルシリーズの「吟醸 吉乃川」はサラリとした口当たりとやさしい吟醸香が吟醸の王道を行く。そして、定番として親しまれている「厳選辛口吉乃川」は、その名の通りすっきりとした辛口酒。いずれの酒も吉乃川の妥協を許さない技の結晶だ。
敷地内にある「酒造資料館 瓢亭(ひさごてい)」では、昔の酒造りの道具など酒造りの資料が展示されており、試飲や販売も行っている。入館は無料(予約制)。
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