Loading...

酒蔵探訪 37 2008年5月

「初孫」 東北銘醸株式会社


山形県酒田市十里字村東山125-3
Tel.0234-31-1515 / Fax.0234-31-5588
https://www.hatsumago.co.jp/

▲佐藤淳司 社長

 一級河川・最上川が日本海に注ぐ山形県酒田市は、江戸時代には「西の堺、東の酒田」と言われ、北前船交易の要所として栄えた港町である。日本有数の穀倉地帯・庄内平野の中央に位置し、秋田県境の鳥海山を間近に望み、海、山、里、すべての恵みを有する豊かな土地である。「山居倉庫」や「本間家旧本邸」などの史跡や名所も多く、訪れる観光客も多い。

 そんな酒田市に、「初孫」の蔵元である東北銘醸株式会社は明治26(1893)年に創業した。回船問屋を営んでいた佐藤久吉氏が、「金久(きんきゅう)」という銘柄で酒造りを始めた。「初孫」という名は昭和の初め、蔵元に長男が誕生したのを機に、皆に愛され喜ばれる酒にしたいとの願いを込めて付けられたという。

▲社屋外観

▲製麹機

 創業以来酒田の中心部にあった酒蔵だが、平成6年に市内十里塚に社屋・工場を移転した。十里塚は漁師村であり、漁師は冬になると出稼ぎで各地で酒造りに赴いたという『蔵人の村』でもある。松林に囲まれた広い敷地に整然と、そしてゆったりと配された工場で、「初孫」はまさに人の技と豊かな自然によって醸されているのだ。

 ここでは創業以来一貫して、手間と時間のかかる伝統手法「生もと造り」による酒造りを行っている。空気中の乳酸菌を活用して酵母を育てるこの手法は、長年培われた技術と経験を要し、生もと造りを行う蔵は全国的にも少ないという。

 そんなこだわりの酒造りを支えるのは、杜氏を中心とした蔵人の技であり、先端技術を有した蔵でもある。連続蒸米機や製麹機、圧搾機など、最新の機械を活用しているが、これはあくまでも「伝統技術を次代に伝えるため」だという。機械化は、手造りの流れを基本に行われているのだ。

 機械化も図りながら、ここでは昔ながらの酒造りの設備も整えている。たとえば製麹も、繊細な調整も可能な製麹機を用いる一方で、手間のかかる蓋麹による製麹も行う。機械と人の手を使い分けているのだ。蔵人が手造りの技をきちんと習得していれば、機械化も伝統の酒造りをうまく助けてくれる。酒造りはチームワーク。血の通った酒造りこそ「初孫」の酒造りなのだ。

 そんな「初孫」の酒造りの心は、特に吟醸造りに発揮されている。平成18年までの20年間で、全国新酒鑑評会で15回もの金賞を受賞、全国でもトップクラスの受賞回数を誇る。「吟醸」と「生もと造り」。この二つの柱で「初孫」は山形を代表する名酒となり、今や全国にも知られる名蔵となっている。 やはり、「初孫」らしさを味わうのであれば、ますは「生もと 純米酒」を試したい。奥深い味わいとスッキリした後味は、伝統技法の生もとならではの味だ。 また、純米本辛口「魔斬(まきり)」は、酒田に伝わる猟師の小刀に取ったという名前の通り、切れ味の鋭い実にスッキリした酒である。しかも純米酒らしい豊かさも持ち合わせると、評判の酒だ。

(左から)
・純米吟醸いなほ
・魔斬(まきり)
・生もと純米酒

 「純米吟醸 いなほ」は、山形産酒造好適米美山錦を55%まで磨き上げ醸した酒。やわらかな香りと味が調和した逸品である。

 この他、長期熟成酒や発泡性にごり酒など、オリジナリティあふれる新商品や季節限定商品もどんどん商品化されている。

 「日本酒はどんどん深くなってきている。お客様の声を聞き、それに応えながら、納得のいく酒造りをしていきたい」と、敷地内には酒造資料館「蔵探訪館」を設けた。フィルム映写や醸造工程などの資料展示によって初孫の酒造りを解説。きき酒コーナーでしぼりたての原酒など蔵元でしか味わえない酒を試すこともできる。(見学無料。月曜休館。TEL:0234-31-2320。)

※掲載されている情報は取材日時点での情報であり、掲載情報と現在の情報が異なる場合がございます。予めご了承下さい。