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酒蔵探訪 42 2008年10月

ニッカウヰスキー仙台工場「宮城峡蒸溜所」


仙台市青葉区ニッカ1番地
Tel.022-395-2111
https://www.nikka.com/

▲中川圭一工場長

 仙台市郊外。ニッカウヰスキー仙台工場「宮城峡蒸溜所」は、深い森の中に落ち着きある景観を呈す。ニッカウヰスキーは国内に7つの工場を有するが、ウイスキーの原酒を造っているのは北海道余市工場「余市蒸溜所」とここ「宮城峡蒸溜所」の2ヶ所である。今回はこの仙台工場を訪ね、中川圭一工場長に工場の歴史やウイスキーの魅力について教えていただいた。

 ニッカウヰスキーの創業者、竹鶴政孝氏は「日本のウイスキーの父」とも呼ばれる。単身スコットランドに赴き、ウイスキー造りを習得した竹鶴氏が最初に蒸溜所を構えたのは北海道・余市。1940年に第一号ウイスキーを出荷している。「おいしいウイスキーを造るには、異なる土地で育まれた複数のウイスキーが必要」と、竹鶴氏は第二の蒸溜所建設に取り組んだ。

▲自然に包まれた工場全景

 仙台工場の一角、新川川(にっかわがわ)の河原に「ニッカ仙台工場建設決定の地」と記された碑が建つ場所がある。1967年、この地を訪れた竹鶴氏は新川川の水を飲み、その清冽で磨かれた味に感動し、ここに工場を作ることを決めたという。

 そんな逸話も残るこの地は、まさにウイスキーづくりに適しているのだという。適度な寒冷地で水に恵まれ、空気が澄んでいる。さらに新川川と広瀬川の合流点であるこの場所は、朝夕には靄が大地を覆う。乾燥し過ぎないことも大切なのだ。ウイスキー造りに必要な諸条件を満たす「宮城峡」で、仙台工場は1969年に竣工した。

 仙台工場の敷地は18万平方メートル。門をくぐるとメインストリートの右手にレンガの建物が並び、左には「ニッカ池」に白鳥が遊ぶ。ちなみにこの白鳥は余市工場のニッカ沼にいた〝つがい〟だという。工場の建設に当たり竹鶴氏は電線を埋設したり、近くの鎌倉山の景観を生かすことなどを指示した。環境との調和を配慮した工場建設は、つまりはそれだけウイスキーが土地の自然や風土、環境に大きく影響を受けることを意味するのだろう。

 宮城峡蒸溜所には、スコットランドからカフェスチル(カフェ式の連続式蒸溜機)が導入された(1962年に当時の西宮工場に導入され、1999年に仙台工場に移設された)。カフェスチルは2塔式で作業効率は劣るが、香味成分に優れたグレーンウイスキーを造ることができるという。このカフェスチル、今では世界でも希少な存在となっている。

 カフェスチルこそ直接見ることはできないが、仙台工場ではウイスキー造りの流れを見学することができる。麦芽を乾燥させる際にピートを燃やした「キルン塔」(現在は使用していない)、麦汁を醗酵させる「仕込み棟」、醗酵液からアルコールを取り出す独特のポットスチル(単式蒸留器)が並ぶ「蒸溜塔」と順を追って見ていけば、ウイスキーがどのように造られるかがよくわかる。そして、ウイスキーが長い年月の間、熟成の時を過ごす貯蔵庫。仙台工場には実に25棟もの貯蔵庫があり、時の経過とともに豊かな香味と琥珀の色を身につける。貯蔵庫の場所、さらに庫内での位置によってもウイスキーの味や香りは微妙に異なるという。また、樽の履歴によっても香りが変わるなど、ウイスキーは実に繊細なものなのだ。

▲鶴17年/宮城峡10年

 一つの樽で熟成された原酒から造られたモルトウイスキー「シングルカスクウイスキー」。一つの蒸溜所で造られたモルトウイスキーだけを使った「シングルモルトウイスキー」。複数の蒸溜所のモルトウイスキーを混和(ヴァッティング)した「ピュアモルトウイスキー」。さらに複数のモルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドする「ブレンデッドウイスキー」。ニッカウヰスキーでは余市、そして宮城峡蒸溜所で造られたモルト原酒とグレーンウイスキーを絶妙にブレンドし、製品化している。「原酒の個性を楽しむのもよいし、あるいは1+1が2以上になるというブレンドの妙を楽しむのもよいと思います」と、中川工場長。

 仙台工場には毎年20万人もの見学者が訪れる。また、オリジナルのブレンドができる「マイウイスキー塾」なども人気が高いという。洋酒にはあまりなじみがないという方も多いかもしれないが、仙台工場を見せていただくと、そんな「食わず嫌い」は払拭されるに違いない。宮城の自然が育んだシングルモルト「宮城峡」や、カフェスチルで蒸溜したグレーンウイスキーをブレンドした「鶴17年」をぜひ、飲み比べてみたい。

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