酒蔵探訪 43 2008年11月
「若関」 若関酒造株式会社
郡山市久留米2-28
Tel.024-945-0010/ Fax.024-945-0011
▲山田平四郎社長
今回は、郡山市の阿武隈山系の懐で「若関」「さ かみずき」などの酒をつくる若関酒造株式会社を訪ねた。蔵の歴史は、文久年間の創業に遡る。社長は代々「平四郎」を襲名、現社長は六代目となる。ずっと、地元に愛される酒を醸し続け、昭和36年に県内中通りの蔵元3社が瓶詰め部門を協業化し、現在の会社の形になったそうである。
「若関」の銘柄は、いつまでも雄々しく酒造業界に躍進したいという願いを込めて付けられた名前。一方、吟醸酒などに冠する「さかみずき」の名は万葉集に登場する大 伴家持の長歌の次の一節に由来する。
ほととぎす 来鳴く五月の
菖蒲草 蓬縵き 酒みづき 遊び慰ぐれど
(ほととぎすが来て鳴く五月の
あやめ草や蓬(よもぎ)を髪飾りにして、酒を飲み、遊んで気分を紛らわ そうとするが・・)
▲豊か自然に包まれた酒蔵
「酒みづき」とは酒宴のことだという。美しい響きの言葉だ。
今でこそ地産地消が声高に謳われ、多くの酒蔵が地元にこだわる酒造りを行う中で、山田社長はもう一歩突っ込んだ地元へのこだわりを目指す。「現在、蔵で働く従業員はすべて地元の人です。
村松杜氏も郡山市湖南町の生まれ。長年酒造りを経験し、さらに県の酒造アカデミーで杜氏の技術を学びました。地元のことを良く知り、地元を愛する人の手で地元の酒を造っています」
若関酒造の酒に使われる水は、阿武隈山系の湧水を引いた井戸水。近くには宇津峰山の山中に「御井戸 の清水」があり、名水の誉れ高い。聞けば酒造業の前には製糸業を営んでいた歴史もあるそうで、なるほど水に恵まれた場所であることに間違いはない。
また精米など酒造りの工程において、随所で細かな管理を徹底している。「一つ一つの作業を、自分達の目と手が届く範囲で丁寧に行っています」その丁寧さは酒造りはもちろん、その先の流通に至るまで行き届く。配送に用いる梱包材の再利用など、できる限り手をかけ、心を配る。
「言い尽くされた言葉かもしれませんが、『和醸良酒』こそ酒づくりの原点だと思います」と、山田社長は言う。「酒づくりにおけるすべての環境、米や水などの原料はもちろん、造り手の気持ち、造り手同士の意思の疎通など、あらゆるものが良い状況にあり、そして、楽しく酒造りができれば、まちがいなく良い酒が生まれます。お米一つをとっても、飯米にならずに縁あって当社に来て若関の酒になるんです。そういう縁を考えると、大切にしよう、いいお酒にしようと思うんです。人も物も同じです。あらゆるものとの縁を大切にしたいと思っています」
▲若関酒造の商品各種
若関酒造の酒は、飲み方や食との組み合わせも大切にしている。たとえば若関の普通酒は冷でも燗でも飲みやすい飲み口。洋食にも合わせられるといい、業務店などでも広く利用されている。また、吟醸「さかみずき」は吟醸酒ながらぬる燗もおすすめとのこと。その他、こちらも年間を通して幅広い利用のある生貯蔵酒など、多彩な商品が揃う。それぞれ飲み方のアドバイスなども行いながら、消費者のニーズに応え、より愛される酒づくりを目指している。
山田社長は現在、郡山酒造協同組合の理事長を務める。加盟6社のセット商品の販売やイベントの開催など、地元の日本酒の普及を目指している。そんなイベントの中でも地元食材を使った料理を出すなど、食と酒との組み合わせを大事にする。
「酒は主役でなくていいと思っています。料理を引き立て、場を盛り上げる脇役でいいんです。食との組み合わせも、こうでなければならないということでなく、むしろどんどん新しいことに挑戦していいんです」山田社長は、食生活も含めてお酒の復活を目指していきたいと言う。
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