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酒蔵探訪 44 2008年12月

「藤乃井」
 有限会社佐藤酒造店


郡山市西田町三町目字桜内108
Tel.024‐972‐2401/ Fax.024‐971‐3007
http://www.yukikomachi.co.jp/

▲渡辺康広 社長

 阿武隈山系の丘陵地帯に位置する郡山市西田町。小高い丘を登りつめた場所に渡辺酒造本店は蔵を構える。かつては守山城あるいは三春城の出城があったとも言われる場所で、なるほど見晴らしのよい場所である。

 創業は明治4年。神事に欠かせない酒を造る、神社の御神酒酒屋として酒造りを始めた。当初は「桜井」という銘柄の酒を造っていたそうだが、昭和初期に首都圏とのやりとりが進む中で、より〝北国の美酒〟をイメージする名前として「雪小町」の名が生まれた。「お隣、小野町は小野小町ゆかりの地とも言われますし、美酒を美人にたとえて名づけられたのだと思います」と話してくださったのは五代目となる渡辺康広社長。大学で農学を学び、灘で修行を積んだ経験を持ち、さらに歴史や書にも造詣が深く、酒造りの現場からラベルのデザインまでこなし、蔵を先導する。

▲酒蔵全景

 そんな渡辺酒造本店が大切にしているのはその地の水とその地の米での酒造りだ。まず水は、阿武隈山系が育んだ地下水。『あぶくま鍾乳洞』にも通じる水で、ミネラル分を豊富に含む中硬水だ。さらに米は自社田と契約田で栽培された「美山錦」「五百万石」を用いる。「平成5年の大凶作を経験し、自分達で酒米を造ろうと決心したんです。実際、その土地の水で栽培した米が、その水と合わない訳がありません。美山錦はこの土地にも合い、さらに磨きやすいこともあり、今では美山錦を中心に酒造りを行っています」

 渡辺酒造本店では、特定名称酒へのシフトも早い時期から取り組んできた。平成2年には9割を占めていた普通酒だが、現在は3割ほどに減っている。「全国と競うためには、付加価値の高い特定名称酒の方がより個性を発揮できると思ったのです」

 人気の「雪小町 純米吟醸原酒」は、福島県産美山錦100%。平成20年度福島県ブランドにも認証されたお墨付き。福島の風土が育んだ酒らしい、豊かなふくらみのある味わいだ。また、美山錦を磨き上げ、低温でゆっくり醸造したのが「雪小町 大吟醸美山錦造り」美山錦ならではという爽やかな香りとしっかりした味わいの大吟醸だ。さらに、郡山産美山錦を麹米に、郡山産の「ひとめぼれ(あさか舞)」を掛米に醸造した「雪小町 純米吟醸 あさか舞」は、まさに郡山の地酒と呼べる逸品。自慢の酒の品質は、福島県の観評会で19年連続金賞受賞という実績にも裏づけされている。

(左から)
・純米吟醸あさか舞
・大吟醸美山錦造り
・純米吟醸原酒

 「大吟醸袋吊り」やシャーベット状で楽しむ「氷の酒美氷」など、オリジナリティ溢れる商品も全国に先駆けて商品化してきた。それぞれ10年、20年もの歴史を持ち、根強いファンも多い。

 目指しているのは〝やわらかな酒〟だという。水と米の特長を活かしながら、上質の酒造りのための努力を続ける。「日本酒は舌と喉で飲むものだと思います」と渡辺社長。「舌で味わうのは、米の特長を活かした特定名称種のような酒。そして喉ごしで飲むのがいわゆるレギュラー酒だと思っています。どちらも大切です。基本として揺るがない味があり、さらにその時々に求められる味も大切にする。〝不易流行〟ということですね」

 渡辺社長は文化としての酒造りの継承、啓蒙にも力を注ぐ。「アルコール離れは今や加速度的に進んでいます。私は〝食育〟ならぬ〝酒育(さけいく)〟を提唱しています」老若男女に日本酒を知ってもらおうと、さまざまな取り組みを行っている。たとえば小中学生を対象とした酒蔵の見学もその一つ。「もちろん子供は酒を飲めませんが、香りを感じてもらい、酒がどういうものか、何より自分達の暮らすすぐ近くで地元で酒が造られていることを知ってもらうことが大事だと思っています。しかもその酒の材料である米が目の前に広がる田で採れるとなれば親近感も沸くはずです」そして大人になった時に、おいしい酒と出会ってもらえればと話す。

 土地の特徴を知り、先人の積み重ねた歴史を尊びながら、さらに新しい、確実な今日を明日へとつなぐ。郡山市街地より一足早く積雪を見た11月の終わり、渡辺酒造本店では本格的な造りの季節を迎えていた。

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