Loading...

酒蔵探訪 45 2009年01月

「藤乃井」
 有限会社佐藤酒造店


郡山市富久山町久保田字久保田5
Tel/ Fax.024‐922‐1763
https://satoushuzouten.jp/

▲佐藤彦十郎 社長

 郡山駅から北に15分ほども歩くだろうか。「旧国道」と呼ばれる県道須賀川二本松線は、かつての奥州街道。さらに北に向かってこの道をたどれば、往時を偲ばせる松並木の名残を見ることができる。ここは松尾芭蕉も通った古くからの由緒ある道なのだ。

 その奥州街道沿いに、佐藤酒造店の前身である藤屋本店は宝永7(1710)年に創業した。この場所は街道沿いに上質の井戸があったそうで、佐藤酒造店でも近年まで井戸水を酒造りに用いていた。蔵の裏手にある日吉神社には当時からの井戸も残っているという。さらに、蔵の敷地に美しい藤が咲いていたことから、通りかかった二本松藩主丹羽公が「藤乃井」の銘を授けたと伝えられている。

▲蔵外観

▲蔵内部

 現在の蔵はおよそ100年程前に建てられたものではないかと、十四代目となる佐藤彦十郎社長。「彦十郎」の名は代々襲名しているものだが、「彦十郎の名は四、五代前から。その前は彦太郎を襲名していたんです」とのこと。いずれにしても、間もなく300年を迎える歴史ある蔵であることに違いはない。商店が立ち並び、車の往来も激しい道沿いに、「藤乃井」の銘が書かれた煙突や趣ある建物が存在感を示す。

 「かつては、首都圏に半分以上を出荷したこともありましたし、安売りに向かった時代もありました。しかし、今は地産地消を大切に、地元に根ざした酒造りを心がけています」と、佐藤社長。

 地元に根ざした酒蔵として、目指すのは地元の人が毎日飲める酒を提供すること。普通酒のレベルアップを蔵の課題として掲げる。地元の米、そして地元の水を原料に、社長自らも蔵に入り、従業員とともに造りの作業に当たる。「普通酒がおいしくなれば、家でも気軽に晩酌で日本酒を飲めるようになると思うんです。日本酒の復権にもつながるのではないかと思います」技術面での研究やコスト管理など、さまざまな視点からより質の高い、そして親しみやすい酒を追求する。

 そんな佐藤酒造店のおすすめの酒といえば、「別撰 藤乃井原酒」だ。熟成後、加水調整をしていないので、酒本来の濃厚な旨みが楽しめる。パンチのある辛口19度のこの酒は、「飲んべえ様に大好評」だという。また、「純米酒 藤乃井」は純米酒らしい深みのある味わいながら、さらりとしつこさがなく飲みやすい。さらに、普通酒は「うまい、安い、フレッシュ」がモットー。この姿勢が酒飲みには嬉しい。

 佐藤酒造店ではグループ会社として、山形県川西町の「嵐山酒造株式会社」も有する。20年ほど前の最盛期には第2工場的な存在だった時代もあったそうだが、現在は独自に酒造りを行っている。酒米「出羽さんさん」を用いた「白銀蔵王」など、人気の銘酒も多い。「土地が違い、水も違いますから、まったく個性の違う酒ができますね。川西町は二メートルも雪が降るところです。気候的にも酒造りに適した場所です」

 また、郡山市内のグループ会社「みちのく酒販」では、業務店向けなどオリジナル商品の販売も手がける。

(左から)
・精撰藤乃井
・藤乃井純米酒
・別撰藤乃井原酒

 12月に訪ねた時、酒蔵は造りの最盛期を迎えようとしていた。湯気のあがる蔵の中では、昔と変わらぬ手間と時間をかけた作業が続けられていた。

 米、水、みちのくの天地の恵みから生まれる「藤乃井」。300年もの歴史を持つ蔵は今もゆっくり、しかし確かに その酒造りの日々を積み重ねている。

※掲載されている情報は取材日時点での情報であり、掲載情報と現在の情報が異なる場合がございます。予めご了承下さい。