酒蔵探訪 46 2009年02月
「奥の松」
奥の松酒造株式会社
二本松市長命69
Tel.0243-22-2153 / Fax.0243-22-2011
http://www.okunomatsu.co.jp/
▲遊佐丈治 社長
西に望む名峰安達太良山。ゆったりと流れる阿武隈川。二本松市はその豊かな自然の中、南北朝時代より城下町としての歴史と文化を積み重ねてきた。「奥州の二本松市」からその名があるという奥の松酒造は創業享保元(1716)年。城下町の歴史と文化の一端を担ってきたことは間違いない。
2007年、十九代当主である遊佐丈治氏が社長に就任した。多彩で個性と魅力あふれる商品を揃える奥の松酒造だが、「消費者の皆さんが求めているのは良い酒、そして求め安い酒だと思います」だから、特別な酒をつくるのでなく、一般の商品の質の向上を追い続けているという。 奥の松の酒づくりは、創業以来290余年の歴史の中で培われた伝統を受け継ぎつつ、常に進化している。酒づくりの本流は変わることがないが、最良を目指し人と設備、道具が〝三位一体〟で酒を醸す。「機械化した方が正確に、迅速に、無駄なくできる作業は機械に任せます。けれど、その機械を調整し、管理するのは作り手である人の技です」と、遊佐社長。
▲八千代蔵
▲自社精米所
「米は酒の命」と自社精米所を設け、原形精米による高精白米を実現している。ジェットの混気水流による洗米、最新式のタンクでの浸漬、連続蒸米機といった最新の設備も、蔵人の熟練した技があってこそ生きてくる。さらに麹は製麹機を導入しながらも手作りの製法と併用している麹づくり。つくる酒によって最適な方法を選んでいる。
もちろん、仕込みに用いる水は安達太良山の伏流水。山に積もった雪は、実に40年以上もの年月をかけて厚い花崗岩の岩盤から湧き出るのだという。この水が蔵の技と出会い、「奥の松」の酒となる。
そんな奥の松の頂点ともいえるのが「奥の松 大吟醸雫酒十八代伊兵衛」だ。酒袋から自然に滴る雫だけを集めた貴重な酒。大吟醸ならではの繊細さと芳醇な香りが楽しめる。安達郡上川崎の手漉き和紙、草月流家元の手によるラベル題字と、その外観にもこだわりぬいている。
また、「IWSC(インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション)2008」の銀賞およびベスト・イン・クラス賞を受賞した「奥の松 純米吟醸」は福島県産米と奥の松独自の酵母を使ったまさに地元の酒。軽快さと重厚さを併せ持ち、後味の切れも良いという、純米吟醸の逸品。
そして、立春限定品として先頃発売された「奥の松 春のしぼりたて」は、大寒から立春までの一年で最も寒い時期に仕込まれ、立春当日に発売した、縁起の良い酒でもある。特別純米の深い味わいとともに、搾りたてならではの新酒の風味が味わえる。
他に低温でビン内でじっくり発酵させたスパークリング日本酒や木桶仕込みの純米酒、さらに奥の松純米酒を蒸留した米100%の醸造アルコールから生まれた全米吟醸など、独自の味も生み出してきた。
そんな奥の松の商品に気軽に触れることができるのが本社社屋一階にある「酒蔵ギャラリー」だ。奥の松の全商品を無料試飲できる他、奥の松商品やオリジナルグッズ、二本松の名産品なども販売。また、日本酒づくりの工程を紹介したビデオの上映やパネル展示も行っている。(営業時間10時~18時/年末年始休業。ギャラリー直通電話0243‐22‐3262)
(左から)
・春のしぼりたて
・純米吟醸
・大吟醸雫酒 十八代伊兵衛
「アルコール離れと言われて久しい中で、質の高い酒づくりを目指すとともに、より多くの方に日本酒を飲んでいただく機会を増やしたい」と、遊佐社長は言う。地元での呑み切り会の開催や各地でのイベントへの参加、さらに海外への進出と、内外で「福島の酒・奥の松」をアピールする。「私たちは、伝統産業として日本の食文化を守り、発展させることはもちろん、日常の食の安全と楽しさを提供する企業でなければなりません。そして、お客様に選ばれる日本酒ブランドを目指していきたいと思っています」
奥州二本松から、今や全国、そして世界へ羽を広げる奥の松酒造。その酒づくりには、伝統を重んじながらも先端技術を取り入れた柔軟さが窺える。しかしその根底に流れるのは、300年近く変わらない酒づくりへの真摯な思いなのだ。
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