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酒蔵探訪 47 2009年03月

「磐城壽」
 株式会社鈴木酒造店


双葉郡浪江町請戸東向10
Tel.0240‐35‐2337 / Fax.0240‐35‐3107
http://www.iw-kotobuki.co.jp/

▲鈴木大介 専務

双葉郡浪江町。福島県の最東端に位置するこの町は、夏は涼しく冬は比較的温暖な、気候に恵まれた町である。請戸漁港や大堀相馬焼きなどでも知られ、これらはまたこの地が自然や資源に恵まれ、古くから栄えてきたことを示すものでもある。

この地で天保年間に酒づくりを始めたのが、今回ご紹介する鈴木酒造店である。もともとは海運業を営んでいたそうで、海運の港、請戸の〝海の男〟のための酒がつくられるようになったのが始まりだという。「港にはたくさんの物資が集まります。酒の原料となる米が手に入ったことも、酒づくりを始める大きな要素だったのではないかと思います」と話すのは、鈴木大介専務。 縁起を重んじ、海運の無事を祝う=「寿ぐ」、そんな海の暮らしに根ざした酒として「磐城壽」は誕生し、地元に愛され続けている。

▲自家製米蔵

 太平洋まで蔵から数十歩。海を眼前にしたこの場所は、 意外にも酒づくりに適した水にも恵まれていた。創業以来枯れることのなかった井戸水は、請戸川の伏流水といわれ、海の水と川の水が合わさる地点にある。そのため、ミネラル分やクロール分を多く含み、これは発酵を旺盛にしたり、米の味を引き出しやすくする効果があるのだそうだ。蔵ではこれまでいくつもの井戸を掘り、少しずつ水質の違う水を使い分けていたという。

 水とともに、米も酒づくりには大切な要素だ。鈴木酒店では、契約栽培による酒米の栽培を行うとともに、コンピュータ制御による自家精米機を導入している。「米を生かすも殺すも精米次第。せっかく良い米を手にしても、精米で台無しになってしまうこともあります」蔵の別棟に建物いっぱいに収まった精米機は、磐城壽の味を決める大事な役割を果たしている。

 冒頭にも触れたが、海辺の気候は酒づくりにもさまざまな特長を寄与している。たとえば海抜はほとんどゼロ。つまり沸点が安定しているので、蒸し米などの作業がしやすい。また、夏の涼しさは貯蔵のしやすさにもつながる。磐城壽は、そんな気候風土にも育まれた酒なのだ。

 「私たちが目指しているのは、地元の方が日常的に飲んでいただける酒です」と、鈴木専務は言う。「一言で『甘口』の酒といっても、旨みはいろんな味が重なっています。また、飲み方もいろいろだし、食事との組み合わせもさまざま。どんま方にも楽しんでいただけるような酒をつくりたいと思っています」ホームページには『簡単に難しく旨口酒。のどの奥が丸くなる酒』とある。

 水によるものか、まろやかな口当たりで米の旨みが感じられる酒と評されることが多いという。中でも地元の米をメインに使用した「純米酒」は、香りもやわらかで落ち着きあるやさしさが漂う、ほっとする酒だ。常温やぬる燗がおすすめとのこと。また、「福島の酒」はいわゆる地元の〝暮らし酒〟で、独特のとろみのある食感は、ぜひ魚と合わせて飲みたい。そして、蔵の特長が一番出ているという「本醸造」は、代々受け継いでいる独特の配合で仕込まれている。飲み飽きしない飲み応えがテーマ、しっかりした味は「塩うに」などの磯の珍味との相性が抜群だという。

(左から)
・本醸造
・福島の酒
・純米酒

 その他、土づくりからこだわる地元農家の米を山廃で仕込んだ「土耕ん醸」や電子技法(電子チャージした水を散布して自然の力を引き出す技法。鈴木酒店では蔵内でも使用)栽培の米を使った「稲穂の雫」、しぼりたてや中汲みなどの季節限定酒など、個性豊かなこだわりの酒も多彩に揃う。

 酒が「海の恵」と称されることは、あまりないように思う。しかし、鈴木酒造店が地元の水と米で丁寧につくる酒は、間違いなく請戸の海の恵を受けて醸されている。「蔵から海まではほんの数メートル。その距離よりも心はもっと海のそばにいたい」磐城壽は、『海の男』の酒なのだ。

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