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酒蔵探訪 50 2009年06月

「太平山」 小玉醸造株式会社


秋田県湯沢市大工町4-23
Tel.0183‐73‐3161 / Fax.0183‐72‐3247
https://www.ranman.co.jp/

▲小玉真一郎社長

 秋田県のほぼ中央の沿岸部に位置する潟上市は、平成17年に三町が合併して誕生した。かつては琵琶湖に次ぐ日本第2位の面積を誇っていた八郎潟に接し、大規模干拓で生まれた雄大な田園風景が広がっている。そんな潟上市飯田川に明治12年、小玉醸造はその前身であるヤマキウの名で創業した。当初は醤油・味噌の醸造を行っており、現在も秋田県内では「ヤマキウ秋田味噌」は県内一の生産量を誇る。清酒「太平山」の醸造が始まったのは大正2年から。「太平山」は日本三百名山に数えられる山の名だ。地元で愛される酒をと、地元で親しまれている山の名を冠した酒は、今では山より有名になってしまった感がある。

 レンガ造りの趣ある蔵を案内していただくと、実に広い。甲子園球場ほどもあるそうで、奥には明治中期に建てられた醸造蔵が現役で使われている。今ではなかなか見ることのない秋田杉の大桶では、醤油のもろみがゆっくりと発酵・熟成を続けていた。

▲社屋正面

▲味噌充填室

 「太平山」も「ヤマキウ」も、〝秋田の心を醸す〟ことをテーマに、安全・安心でおいしい食づくりを続けている。「創業以来、ずっと発酵というものにこだわり続けてきました。酒も味噌もこの飯田川という風土、長年伝えてきた人の技、そして蔵が醸しているのです」と、小玉真一郎社長。

 昭和8年に全国初の冷用酒「玲琅太平山」を発表、翌9年には全国酒類品評会で出品総数約5千点中第一位を獲得するなど、「太平山」はずっと高い評価、そして多くのファンを得てきた。全国新酒鑑評会では毎年のように金賞を受賞、モンドセレクションでの金賞受賞も昨年で九年連続となっている。最近では「インターナショナルワインチャレンジ2009」でも金賞を受賞している。

 純米大吟醸「天巧」は、自ら「太平山の真骨頂」と謳う自信作。独自の生もと造りで醸した、きれいでありながら深さのある飲み口は、さすがとしか言いようがない。 また、地元産米をやはり生もと造りで醸した「純米秋田生もと」は、モンドセレクション世界最高賞を受賞。喉越しよく、程よい旨味も特長だ。さらに酒米「秋田酒こまち」を原料とする「秋田生もと吟醸」は上品な旨さと軽快な後味を持つ。

 敢えて手間のかかる生もとや吟醸を主力とする酒造りは、現在社内で育った杜氏を中心に進められている。「これまで培ってきた技を伝承していくことこそ、これから私たちがやっていかなければならないことだと思います」だから、他の蔵にも惜しみなく技術を開放し、秋田の酒全体の向上を目指しているという。

 あくまでも飯田川の地に根ざし、この地だからこそできる酒造りを続けることが大切だと小玉社長は言う。「現在、アメリカやアジアへの輸出も行っていますが、それもこの地にしっかり根を張ってこそできることです」

(左から)
・秋田生もと吟醸
・純米秋田生もと
・純米大吟醸天巧

 この秋、蔵の一部に地元出身の水中写真家・中村征夫さんの常設ギャラリーがオープンするという。中村さんは木村伊兵衛賞や土門拳賞を受賞したこともあり、常設展とともにトークショーなどさまざまな企画も検討中とのこと。独特の雰囲気を持つ蔵は、きっと素敵なギャラリーとして広く親しまれるに違いない。

 郡山市から新幹線と在来線を乗り継いで3時間あまり。5月の八郎潟は名残りの菜の花が春の終わりを感じさせるものの、清々しい青空の広がる爽やかな場所だった。静かな町並みに存在感のある古い蔵。なだらかな稜線を見せるおおらかな山「太平山」の名を持つ酒は、なるほどこの場所で生まれたのだ。

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