酒蔵探訪 52 2009年08月
「一滴千両」「そふと新光」
秋田県醗酵工業株式会社
秋田県湯沢市深堀字中川原120‐8
Tel.0183‐73‐3106 / Fax.0183‐72‐2816
https://www.oenon.jp/
▲松岡勝社長
清酒「一滴千両」や「小野こまち」、焼酎「そふと新光」や「あいぼう」といった銘柄でおなじみの秋田県醗酵工業株式会社が誕生したのは昭和20年4月のことである。時代は第二次世界大戦も末期を迎えた混乱期。秋田県内では国の生産統制などにより清酒の石高は激減、銘柄も半数以下に統廃合されていた。そんな中で、清酒に代わるべきアルコール飲料として合成清酒や焼酎への関心が高まり、さらに国からは合成清酒等増産の指示が下された。これに応える形で県内の酒造業者及び酒類販売業者が設立したのが秋田県醗酵工業なのである。
しかし、原料や燃料の不足、戦後の混乱はいかんともし難く、「菊芋」での生産や石炭の確保、免許の切り替えなど、創業期の苦労は想像を超えるものであったようだ 創業3期目となる昭和21年に初めて製品を出荷。その後増資や大手メーカーとの提携などを経て、徐々に総合酒類メーカーとして成長を遂げていく。
▲平成蔵の内部
▲単式蒸留機
秋田県醗酵工業は現在、酒類や食品、酵素医薬品など幅広い事業を展開するオエノングループの一翼を担う。昨年、秋田県醗酵工業の社長に就任した松岡勝氏は、「グループのノウハウを活かし、秋田の清酒の良さをさらに全国に広めたい」と放す。
現在、同社には「昭和蔵」と「平成蔵」の二つの仕込み蔵がある。いわゆる大衆酒を製造するのが「平成蔵」。連続蒸し米機や自動製麹機、大型仕込タンク等の設備を整え、酒質の維持向上を目指す。一方、「昭和蔵」では昔ながらの手作りの仕込みが行われる。また、清酒を貯蔵するタンクは最大360klの容量を持ち、この蔵の能力の高さを窺わせる。
酒どころ秋田にあって、中でも湯沢は米にも水にも恵まれた場所だ。ミネラルの多い地下水は硬度が高く、スッキリとしたクセのない辛口の酒を生むという。「一滴千両」は〝一滴で千両もの値打ちがある〟というその名前の通り、全国新酒鑑評会で金賞受賞の常連となっている。
秋田県醗酵工業は、創業以来焼酎の製造にも力を注いできた。単式蒸留機、連続式蒸留機を備え、昭和50年代にその名を博した乙類焼酎「ブラックストーン」や甲類焼酎「そふと新光」は、東北の焼酎ブームを牽引した。現在、「そふと新光」は度数、容量、瓶・ペットなどをさまざま揃え、商品は10を超える。乙類焼酎では酒粕を原料とした「ブラックストーン」の他、米で造られた「米蔵(こめぞう)」も人気だ。また、かつては甘藷の代用品として使われるようになった菊芋をはじめフキノトウや蕗、かぼちゃなど、地元の特産品を用いた焼酎は十五種程もあるという。地産地消もまた、秋田県醗酵工業の目指すところである。
実は昨冬、初めて雪深い秋田の冬を経験したという松岡社長。「正直言って驚きました。しかし、この自然があるからこそ、きれいな水、おいしい米、そしておいしい酒が生まれるのだと実感しました」
(左から)
・そふと新光 25%
・本格焼酎 ブラックストーン 41%
・本格焼酎 米蔵 25%
・一滴千両上撰
戦中、戦後の混乱期に誕生し、時代の流れに合わせながらも自らの使命と酒造りへの誇りを守り、成長を遂げてきた秋田県醗酵工業。これからも秋田ならではの酒、焼酎を全国に発信し、その質の高さを示してくれるに違いない。
帰路、湯沢城址にある「力水」に立ち寄った。ここはこの地を納めていた佐竹氏の御膳水として使用されていた水場だという。いつの頃からかこの水を飲むと力が出ると言われるようになり、「力水」と呼ばれるようになったという。現在、日本の水百選に選ばれており、水を汲みに訪れる人も多い。これもまた、湯沢が水に恵まれている証の一つといえよう。
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