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酒蔵探訪 56 2009年12月

「いいちこ」
 三和酒類株式会社


大分県宇佐市大字山本2231番地の1
Tel.0978-32-1431 / Fax. 0978-33-3030
https://www.iichiko.co.jp/

▲和田久継社長

 大分県宇佐市。県の北部、国東半島の根元に位置し、北に周防灘を臨む変化に富んだ自然を有するところで、市内にある宇佐神宮は、全国に四万余りある八幡様の総本宮で、その本殿は国宝に指定されている。

 「下町のナポレオン いいちこ」を産する三和酒類は昭和33年、地元の三つの酒造会社が集まって創業した(翌年一社が加わっている)。酒造業が右肩下がりの厳しい状態の中、「三本の矢」で生き残りを図ろうとしたものだという。

 「いいちこ」とは、「いいですよ」という意味の方言。この名前を冠した麦焼酎が誕生したのは昭和54年のこと。この焼酎がこだわったのは、何よりも品質だった。素材の良さ、その素材を引き出す技術、そして誠実な造り。当時、焼酎といえば独特の匂いがあるのが当たり前だったが、「いいちこ」はクセがなく飲みやすい、香りの良い焼酎を目指した。そして、幅広く親しまれるようにと、「下町のナポレオン」の愛称が採用された。デザイナーの河北秀也氏(東京芸大教授)の手による独特のポスターなどの広告展開も功を奏し、20余年後には年間出荷量が50万石を超える、世界でも類を見ないスーパーブランドに成長した。

▲日田蒸留所

▲日田蒸留所蒸留器

 そんな「下町のナポレオン いいちこ」をベースに、高精白、低温発酵、そして大麦麹だけを使った全麹造りの、いわば「いいちこ」の頂点といわれる「いいちこフラスコボトル」。澄んだ香りと豊かなコクと深みは、まさに極められた味といえる。

 さらに、2008年に誕生した「いいちこ日田全麹」は、日田蒸留所で醸された本格焼酎。日田蒸留所は、深い自然と清らかな水の恵みを受けた山紫水明の地に、『原酒をはぐくむ酒の杜』として設けられ、全麹造り原酒や長期貯蔵酒などを手がけている。

 「いいちこ日田全麹」も全量大麦麹仕込みを行った贅沢な造りによって、これまでにない焼酎の世界を見せている。趣のある「いいちこ民陶くろびん」も、そのやわらかな口当たりとほのかに広がる素朴な旨さが人気を得ている。

 「いいちこ」ブランドを守り、進化させながら、三和酒類では新たな事業展開も進めてきた。ワイナリーの建設や焼酎製造から生まれる副産物を利用したバイオ・食品事業への取り組みなどである。しかし、あくまでも基本理念である「品質第一」の姿勢を変えることなく、地に足の着いた企業であり続ける。

 たとえば毎朝、始業前に行われる清掃は、社長や役員も率先して行う。朝礼にも時間をかけ、社員が情報を共有することを大切にしている。本社、工場の他に支店や営業所を置かず、営業担当の社員が全国を駆け回る。そこには「おかげさまで」という真摯な心を重んじる企業の姿勢が窺える。

 三和酒類はまた、「味=文化」という考えの下に、土地に生きる人や自然、精神といった固有の文化を掘り起こし、見直し、産業社会とのバランスあるかかわりを捉えていきたいと言う。1986年から文化誌「季刊iichiko」を発行し、土地に根ざした文化や人に焦点を当てて紹介し、反響を呼んでいる。さらに、1991年からは、世界の文化学の研究者を対象に「iichiko文化学賞」事業も開始、海外の学者を日本に招聘し、セミナーを開くなどの活動も行っている。

 2009年9月のポスターは、雨や風にさらされ削られ、穴の開いた大きな岩の写真に、こんなコピーが添えられている。「過ぎてゆくのは、時と風です」三和酒類の広告は、雄大な自然や旅をテーマに、ゆったりとした時間の流れや、その時の流れに逆らわない自然や人の営みが伝わる作品が多いように思う。

(左から)
・いいちこ民陶 くろびん
・いいちこ 日田全麹
・いいちこ フラスコボトル
・いいちこ パック

 大分で生まれ、大分で育った「いいちこ」。地域の技が東京へ、世界へと躍進を遂げたわけだが、決してそれは時の流れに逆らったのでも、あるいは人をかきわけ、押しのけてきたのでもない。三和酒類についてさまざまなことを知るにつけ、「自然体」、そんな言葉が浮かんでくる。企業の姿勢、そして酒造りの姿勢は変わることがないのだ。

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