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酒蔵探訪 58 2010年2月

「山崎」
 サントリー 山崎蒸留所


大阪府三島郡島本町山崎5-2-1
Tel.075-962-1423(案内係)
https://www.suntory.co.jp/factory/

▲蒸留所外観

 京都の南西、天王山の麓にある山崎。ここに、寿屋(のちのサントリー)の創業者、鳥井信治郎が蒸溜所の建築に着手したのは1923年のことだ。以来、この場所で日本のウイスキーは確かな歴史を刻み続けてきたのである。

 桂川、宇治川、木津川が合流する山崎は、万葉の歌にも詠まれた名水の里である。「水生野(みなせの)」と呼ばれ、中世の貴人はここで狩りをし、また、詩歌や管弦に興じた。茶道を極めた千利休もまた、この水で茶をたてたといわれる。日本名水百選にも数えられるこの水、そして独特の地形と湿潤な気候によって育まれる風土こそ、「ウイスキーづくりの理想郷」といわれる所以であろう。鳥井信治郎は1899年に大阪に「鳥井商店」を開業し、1907年には甘味葡萄酒「赤玉ポートワイン」を発売した。1921年に「株式会社寿屋」を創立した後、「日本の風土にあった、日本人に愛されるウイスキーをつくろう」と、蒸溜所建設に踏み切ったのだ。1924年に蒸溜を開始し、5年後には日本初の本格ウイスキー「サントリーウイスキー白札」を発売、海外へ初輸出など行い「サントリーウイスキー角瓶」に続き「サントリーウイスキーオールド」の発売も計画するが、第二次世界大戦によって中止を余儀なくされる。

▲蒸留所内部

 しかし、1946年「トリスウイスキー」、1950年「オールド」を発売。間もなくトリス・ブームとなり、1950年代後半にはトリス・バーやサントリー・バーが続々誕生した。その後サントリーモルトの粋を集めた「サントリーウイスキーローヤル」を発売するなど、1973年に「白州蒸溜所」が開設されるまで、山崎蒸溜所は日本のウイスキーを牽引し続けてきた。

 ウイスキーづくりは、原料となる二条大麦を発芽、乾燥させ麦芽にすることから始まる。これを温水とともに仕込み、ろ過して麦汁をつくり、発酵させる。サントリーではさまざまなモルト原酒をつくるため、数千種もある酵母の中からイメージするウイスキーの香味にふさわしい酵母を厳選。発酵槽にはステンレス槽に加え、木桶槽も使用している。木桶槽は保温性にすぐれ、しかも蒸溜所内に棲みつく自然の乳酸菌などの働きによって、ウイスキーに豊かな味わいをもたらすという。

 さらに、蒸溜は「ポットスチル」と呼ばれる独特の形をした単式蒸溜釜を用い、初溜と再溜の二回行われる。ここでは直接炎を当てる直火蒸溜と蒸気を使った間接蒸溜の二つの加熱方式を採用している。また、ウイスキーの個性に大きく影響する貯蔵樽も、形や材質などを変え、多彩なモルト原酒を磨いているのだ。

(左から)
・山崎25年
・山崎18年
・山崎12年
・山崎10年

 同一蒸溜所のみのモルトウイスキーでつくる、『山崎』『白州』などのシングルウイスキー。多くのモルトウイスキーと、トウモロコシ・麦芽を原料とするグレーンウイスキーを組み合わせてつくる『ローヤル』などのブレンデッドウイスキー。サントリーでは、ここ山崎蒸溜所と白州蒸溜所という二つの蒸溜所による多彩なモルトウイスキーのつくり分けと同時に、高いブレンドの技を持つブレンダーの存在があるからに他ならない。豊かな自然の中で生まれる個性豊かな原酒、その組み合わせ、数十年先をも予想する感性。山崎蒸溜所では自然の恵みと人間の技、そして心によって、世界が認めるウイスキーが生まれ続けている。

 山崎蒸溜所では、無料のガイドツアー(製造工程の見学と試飲)を実施している。「ウイスキー館」では日本のウイスキーの歴史やウイスキーライブラリーの展示、多彩なラインナップのサントリーウイスキーやグッズを揃えたファクトリーショップで、よりウイスキーの魅力を楽しむことができる。世界でただ一つの個性のモルトを樽ごと自分のものにできる、世界でも類のない「オーナーズカスク」も販売している。周辺の観光と併せて、立ち寄るのも良いだろう。

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