酒蔵探訪 69 2011年1月
「豊国」豊国酒造合資会社
河沼郡会津坂下町字市中1番甲3554
Tel.0242-83-2521
http://aizu-toyokuni.com/
▲高久禎也社長
会津坂下町の「ばんげ」、フランス語の「ボン(BON)」、英語の「グッド(GOOD)」を組み合わせた「ばんげぼんげ」と言う造語がある。これは、同町の有志が町のPRのために統一ブランドとして公募で決めた「坂下よいとこ」を意味する名前であり、町内には「ばんげぼんげ」と言う名の特産品が複数あると言う。その一つとして酒を商品化しているのが、今回ご紹介する豊国酒造である。
県内にはもう一つ、「東豊国」の醸造元である石川郡古殿町の豊国酒造があり、会津坂下町の豊国酒造は「アイヅトヨクニ」と呼ばれることも多いと言う。「特につながりは無いんですよ」と話す高久禎也社長は、文久2(1862)年の創業から数えて5代目となる。
高久社長が蔵を継いだのは昭和57(1982)年のこと。先代が亡くなり、医薬品メーカーのMRからの転身だった。営業を担当し、酒造りも徐々に覚えて行こうと県酒造組合の清酒アカデミーを受講していたのだが、突然、造りを任せていた杜氏が蔵を辞めてしまう。「次の造りをどうするか」蔵は存亡の危機を迎えたのだ。「話し合った結果、それなら自分達で造ろうと言うことになったんです」。共に清酒アカデミーを受講していた朋子夫人と夫婦二人、そして従業員とともに、新たな酒造りが始まった。今でこそ経営者が杜氏を務める蔵も少なくないが、高久社長はまさにオーナー杜氏のはしりだった。「師匠にも恵まれ、妻や従業員、そしてたくさんの方の理解と協力によって、何とか酒造りを続ける事ができました」と、高久社長は当時を振り返る。夫婦を中心に仕込んだ純米大吟醸酒には、「夫婦さくら」と言う名前をつけた。以来、高久社長を中心とした酒造りは軌道に乗り、間もなく以前よりも高い評価を得るようになった。
▲蔵の内部
「基本に忠実に手抜きをしない」、それが豊国酒造の酒造りだ。地元産の五百万石などの米を用い、原料の性質を見極め、丁寧に仕込む。そして、しぼりは普通酒から上級酒まで全量「ふなしぼり」で行う。時間はかかるが、やはり酒質が違うという。「中どり」や「おり酒」など、ふなしぼりならではの商品も季節限定で登場する。
また、ここでは酒造りをデータ化し、細かく分析する。「米の状態や天候など、毎年条件が変わる中で、できるだけ再現性のある酒造りをしていきたいと思っています」。また、今後は熟成にも力を入れていきたいと言う。こちらもまた、酒の状態や特徴を見極めつつ、いかに管理、熟成させるか、そこがポイントだ。酒造りのことを話す時、高久社長は実に生き生きとした表情を見せる。酒造りは決してこちらの思うようにばかりは行かない。そこが苦労するところであり、やりがいのある部分でもある、と話してくれた。
近年「學十郎」の名を見たり聞いたりしている方も多いだろう。大吟醸酒や金賞受賞酒に冠されたこの名は、他でもない、創業者の名前である。一方、長女の名「真実」を付けた吟醸酒もある。初代の名を、つまりは創業当時から続く蔵の歴史を大切にしてい る。そして、新しい次代にも繋いでいく。そんな思いが込められているのだろう。
(左から)
大吟醸 学十郎
純米吟醸 夫婦さくら
吟醸酒 真実
純米吟醸 ばんげぼんげ
冒頭に紹介した「ばんげぼんげ」、豊国酒造では地元 会津産の「夢の香」を使用した純米吟醸酒にこの名を付けた。地域の活性化、町おこしの一助となればとのことだが、一方ではやはり、地域あっての地酒と言う地元への感謝の思いも強い。先述の吟醸酒「真実」は、福島県ブランド認証産品にも認定されている。このブランド認証制度は平成19年に始まったもので、現在8種30品目の産品が認証されており、そのうち日本酒は14品を数える。
会津坂下町で酒を造り、まもなく150年。時代や蔵の体制は変わっても、豊国酒造の酒造りへの思いは、実は初代學十郎氏の頃からずっと変わっていない。そしてきっと、これからも坦々と続いていくに違いない。
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