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酒蔵探訪 72 2011年4月

「太平櫻」太平桜酒造合資会社


いわき市常磐下湯長谷町町下92番地
Tel.0246‐43‐2053
http://www.sake-iwaki.com/

▲太平正志社長

 いわき市常磐。ここは古来、名湯として知られる湯本温泉や、日本の近代化に大きな役割を果たした「常磐炭田」などを有し、歴史に名を刻んできた場所である。

 ここに上湯長谷町、下湯長谷町の地名があるが、これはかつて平藩から分家した湯長谷藩の藩名に因るもので、寛文10(1670)年から明治維新まで続いた藩の館跡も残っている。ちなみに常磐炭田の礎は湯長谷藩時代の安政2(1855)年、藩内の白水地区で商人・片寄平蔵が石炭を発見したことから始まった。

 そんな常磐下湯長谷町に、太平桜酒造は白壁の塀をめぐらした蔵を構える。細く曲がりくねった道は、城下町の名残だという。蔵は享保10(1725)年の創業で、藩主の命で酒造りを始め、その酒は藩の財源の一つだったそうである。社長の大平正志氏は9代目。「『太平櫻』の名は、庭にあった桜の古木を見て、先代が『太平の桜を愛でて酒を酌み』と詠んだことからつけたと聞いています」。穏やかな春の日に、桜の樹下で静かに杯を傾ける。そんな姿が目に浮かぶようである。

▲酒蔵外観

 「小さな蔵ですし、珍しいことではないかもしれませんが、手づくりの酒造りにこだわっています」と、大平社長は言う。地産地消をモットーに、米は、福島県で開発された酒造好適米「夢の香」や、「五百万石」など、100%県産米を使用する。生産農家とも極力顔を合わせ、米のできなどを確認するという。水は阿武隈山系に源を発する鮫川水系の水。「うつくしま夢酵母」を用い、手で触り、目で見て、ていねいに酒を醸す。全量を槽しぼりでしぼるのも小さな蔵だからこそできるこだわりの技といえよう。

 造った酒はその9割が地元で飲まれる。「地元でかわいがられる酒でありたいと思っています」。だから、鑑評会で評価されるより、〝ほっとする〟酒を目指しているのだと社長は言う。地元で消費されるということは、その反応もすぐに返ってくる。「個々のお客様の声を聞き、できるだけ応えていきたいと思っています」。グループでの勉強会を開いたり、オリジナルラベルの商品を作ったり、地道な努力も重ねている。

 「純米酒 いわきろまん」は、県産米「夢の香」をうつくしま夢酵母で仕込んだやさしい味わいの酒。やや甘口だが後味スッキリ、気負わず気軽に楽しみたい。また、その名も「夢の香 純米原酒」も、「夢の香」と「うつくしま夢酵母」で仕込んだ酒。穏やかな香りとしっかりした味わいが純米酒らしい。さらに、「太平櫻 大吟醸」は、柔らかな香りと味わいの上品な大吟醸酒。いずれも米と酵母、そして蔵人の技の絶妙なバランスで生まれる味だ。他に生酒、活性酒など、季節商品もあり、地元の人々に愛されている。

(左から)
・純米酒 いわきろまん
・夢の香 純米原酒
・太平櫻 大吟醸

 湯本温泉は、かつて関東と東北を結ぶ重要な街道「陸前浜街道」の宿場としても栄えた場所だ。また、常磐地内にある金刀比羅神社は日本三大金毘羅宮の一つであり、毎年1月の例大祭には10万人以上の参拝者を迎える。近年はスパリゾートハワイアンズや、映画「フラガール」人気での観光客も多い。

 そんないわき市常磐に、藩政時代に創業し300年近い歴史を持つ太平桜酒造。実は取材にお邪魔したその直後、東日本大震災によって、いわき市は震度6弱の揺れに見舞われた。太平桜の酒蔵も大きく揺さぶられ、傾いたタンクもあり、今年度仕込みの酒の8割は商品化が不可能となったという。また、蔵全体にわたり、甚大な被害を受けたそうで、その対策に苦慮しているとの連絡をいただいた。太平の桜を愛でて酒を酌む、そんな日が再び、一日も早く訪れることを願ってやまない。

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