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酒蔵探訪 76 2011年8月

「無月」井上酒造株式会社
 櫻の郷酒造株式会社


井上酒造株式会社
宮崎県日南市南郷町榎原甲1326番地
Tel.0987-68-1055

櫻の郷酒造株式会社
宮崎県日南市北郷町郷之原甲888番地

▲寺田徳男社長

 宮崎県南部から鹿児島県に続く海岸線は、その海岸線とともに海中の美しさで知られ、国定公園にも指定されている。変化に富んだ海岸線や海に浮かぶ大小の島。南国ムード漂う観光施設や海の幸を目当てに、全国から多くの観光客が訪れる場所だ。

 そんな日南海岸を有する日南市の南郷町に明治27(1894)年、井上酒造株式会社は創業した。当初は清酒を造っていたが、大正10年から焼酎の製造を開始。南九州の酒文化といえば、やはり焼酎に他ならない。井上酒造での焼酎製造には、それぞれの国、それぞれ地方で先人たちが育んできた文化を大切にしたいという思いがあったに違いない。以来、井上酒造はその文化の担い手として、焼酎の製造に精進してきた。いわゆる最初の焼酎ブームといわれるのは昭和40年代後半だが、井上酒造はその時代の波に対応すべく昭和50年、株式会社に組織を改める。そして、昭和56年に製造設備を増強、同58年に独自の減圧蒸留技術を開発し、日本で初めての減圧蒸留100%の芋焼酎の製造を開始した。当時は常圧蒸留が主流だった中で、大きく脚光を浴びたという。ブームの中にあっても安易にニーズに応えるだけでなく、常に高みを目指すその姿勢は、もちろん商品に反映する。

▲工場入口

▲かめ蔵

 井上酒造の商品は、国内外で毎年、数々の賞を獲得している。「名水仕込み 芋焼酎 飫肥杉(おびすぎ)」は本年度もモンドセレクション最高金賞を受賞、これで4年連続の受賞となる。また、「長期甕貯蔵 いも焼酎 無月(むげつ)」も国内外で毎年のように賞を獲得している。

 平成6年、市内北郷町に「櫻の郷醸造合名会社(現・櫻の郷酒造株式会社)」が設立された。歴史ある井上酒造の製造技術を生かし、なおかつ最新鋭の設備で麦焼酎の製造を開始した。さらに、この櫻の郷酒造には、より美味い焼酎を目指し、カメの貯蔵蔵を設けた。容量500リットルものカメを使い、芋、麦、米焼酎を5千個も貯蔵している。

 現在は3万石もの生産量を誇る井上酒造、櫻の郷酒造が製造する焼酎は、先に紹介した「無月」「飫肥杉」に加え、赤芋を使った「赤無月」、麦焼酎の古酒をブレンドした贅沢な「神武・琥珀 桐箱入」など実に多彩だ。

 焼酎の魅力をより多くの人に知ってほしいと、平成13年、櫻の郷酒造の敷地内に「体験型ミニブルワリー焼酎道場」がオープンした。明治から大正時代の酒蔵を地元特産の飫肥杉で再現したこの施設では焼酎の製造ラインを見学できるほか、焼酎造りを体験することもできる(見学は無料、体験は予約制で有料)。試飲コーナーもあり、さらにここでは焼酎をブレンドし、世界に1本しかないマイブレンド焼酎を造ることもできるという。

(左から)
・芋焼酎「飫肥杉」
・芋焼酎「無月」
・「赤無月」
・「赤芋の宴」
・「神式・琥珀」桐箱入り

 幾度かのブームを繰り返し、今や全国で多くのファンがさまざまな焼酎を選び、楽しんでいる。そんな中で、南九州の文化としての焼酎造りにこだわってきた井上酒造、櫻の郷酒造は、その人気やブームに惑わされることなく、文化の伝承と発展を目指すという。その一方で、食生活や飲酒パターンの多様化にも対応していかなければならない。ますますグローバル化が進む中で、伝統的文化の継承と激変する環境への適応という相反するかに見える目標を掲げる。しかし、その解決策はただ一つ、厳選した原料と地元の名水をもって美味い焼酎を造り続けることなのだろう。

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