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酒蔵探訪 78 2011年10月

「桃川」 桃川株式会社


青森県上北郡おいらせ町上明堂112
Tel.0178-52-2241
https://www.momokawa.co.jp/

▲社長 鄭 煥書(チョン ファンソ)

 青森県東南部に位置するおいらせ町は、平成18年に百石町と下田町が合併して誕生した町である。奥入瀬川の豊かな自然に恵まれたこの場所で、清酒「桃川」を醸造する桃川株式会社は江戸時代末期、三浦家が江戸時代末期に清酒製造を開始したことにその歴史の幕を開ける。明治22(1889)年、八戸市の村井倉松氏がその製造権を継承し、村井酒造店を設立した。「桃川」の誕生である。

 「桃川」という名は当時、百石川(奥入瀬川)の水を使用していたことから、「百」を果物の「桃」に変えて、命名されたものだという。今も、奥入瀬川の伏流水が酒造りに用いられている。

 第2次世界大戦時、戦時立法の企業整備令によって昭和19(1944)年に青森県上北郡、下北郡の2つの郡下にあった製造業者が合併して二北酒造株式会社を設立。当初13を数えた業者は、戦中戦後を経て「桃川」以下5つとなり、さらに年月を経た昭和59(1984)年に桃川以外の4銘柄が独立分離、ここに「桃川株式会社」となって新たなスタートを切ったのである。

▲見学者を迎える「SAKE HOUSE おいらっせ桃川」

 明治、大正、昭和、平成と4つの時代にわたり、東北の銘酒として酒造りを続けてきた桃川は、「おいしい酒を通して人々を幸せにし、社会貢献をする」ことを会社理念に掲げている。青森県は、いわずと知れた雪国である。世界遺産白神山地の湧水を筆頭に、八甲田山の伏流水、そして奥入瀬渓流のように、数多くの名水は雪国ならではのものといえよう。桃川もまた、十和田湖を源とする奥入瀬渓流の地下250m伏流水を仕込み水に使用している。きめ細かくまろやかな口当たりの酒は、この水に因るところが大きいという。

 米もまた、青森の豊かな自然環境によって育まれる。青森県産の「むつほまれ」、「つがるロマン」や「華想い」などの酒造好適米、そして「山田錦」などを使い分け、さまざまな味わいの酒を醸している。さらに、北国の寒冷な気候もまた、おいしい酒を造る大きな役割を果たしている。

 良い原料と良い環境に加え、桃川はおいしい酒を提供するために「品質第一主義」を貫いてきた。現在、蔵人は国家資格である「1級酒造技能士」の資格を有し、その蔵人を率いる杜氏は〝あおもりマイスター〟にも認定され、さらに「青森県卓越技能者」の表彰も受けている。

(左から)
・にごり酒各種
・吟醸純米杉玉
・ねぶた淡麗 純米酒
・桃川純米酒

 そんな酒造りの名人達が醸すのは、代表銘柄「桃川」に加え「ねぶた」、「杉玉」、「にごり酒」など。その個性豊かで確かな味わいの商品ラインナップもまた、実力派蔵元らしさが窺える。

 もちろん桃川の酒は、内外で高い評価を受けている。全国新酒鑑評会や南部杜氏自醸清酒鑑評会などでは毎年のように金賞や優等賞を受賞。さらにアメリカ進出など世界を視野に入れた展開も行っている。

 桃川はまた、「いい酒は朝が知っている」という一文を品質方針として掲げている。家族や仲間、パートナーとの食事や酒席で楽しいひとときを過ごす。そして、次の朝も気持ちよく目覚められてこそ、「いい酒」だという。左党であれば、思わず大きくうなずいてしまうに違いない。

 「桃川」のラベルには、明治時代の日本画家、小杉放菴が桃川に贈った句の文字が使われている。柔らかな書体が「桃」の芳香を思わせ、言葉の響きにもよく合う。「よき人は よき酒つくる みちのくの 桃川の酒に 今日も酔ひたり」。画家もまた、桃川の酒で幸せなひとときを過ごしたに違いない。

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