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新・酒蔵探訪 10 2012年8月

小原酒造株式会社


喜多方市字南町2846
Tel.0241-22-0074
http://www.oharashuzo.co.jp/

▲小原公助社長

 喜多方市にある小原酒造と聞いて、モーツァルトの音楽を聴かせて酒を醸す蔵と思い出す方もいるだろう。前回このページでご紹介した際には、ちょうどモーツァルト生誕250年ということで登場した酒などもご紹介した。モーツァルトを聴かせることも、もはやこの蔵ではスタンダードとなっている。享保2(1717)年創業、間もなく300年の歴史を数えるこの蔵は、喜多方の風土とクラシックが醸す純米酒「蔵粋(クラシック)」シリーズを中心に、常に前進を続ける酒造りをめざしている。

 2009年、小原酒造ではすべての酒を米と米麹、水だけで造る純米酒とした。「そもそも三増酒やアル添酒といったものは戦時中、米が不足していた時代に生まれたものです。アルコール添加の一つの形として言われる『柱焼酎』も、江戸時代、酒の腐敗を防ぐために米焼酎を加えたものです。良い米と米麹、そして良い水だけで醸す酒こそが、やはり日本酒の原点だと思うのです」。そう話すのは小原公助社長。 小原社長は昭和62年頃、当時東京都北区滝野川にあった醸造試験所で研修を受けていた際に、150本もの酒を利き酒したことがあるという。「まだ、吟醸酒ブームの前でした。指導してくれた先生は『三増酒が日本酒を衰退させる』と言っていました。酒をあるだけ集めろといわれ、全国のさまざまな銘柄の酒を利き酒して、好きな酒を選ぶようにいわれたのです」。その時に良い原料を使い丁寧に醸すことの大切さを感じ、以来、まじめに良い酒を造ることを何より大切にしているという。そしてラインナップされた「蔵粋」シリーズは、大吟醸、純米大吟醸、純米など、いずれも雑味がなく繊細な味わいの、きれいな酒が揃う。

▲蔵外観

 社長は現在、生または生貯蔵ですべての酒を出荷すべく研究を重ねているという。生酒を貯蔵するサーマルタンクの温度を何度にすればよいか、これもまた試行錯誤を重ねて絶妙の温度を見つけたという。「1年経っても色もつかず、ひねない。ぴりぴりせず、逆に丸みを帯びた味わいの酒になっていて、私自身驚きました」。小原社長は、どんなことにも自ら納得するまで追求し、結果を出す。

 何よりもお客様に喜ばれる酒造りを、と考える小原社長はまた、独自の発想で商品開発にも積極的に取り組む。「ピチピチシリーズ」は、純米活性にごり酒。酵母を生きたまま瓶詰めした生タイプと、瓶火入れタイプの2種類あり、新しい日本酒の世界が楽しめる。携帯用の水筒「スキットル」をガラス瓶で再現した「蔵粋スキットル」も、山歩きが趣味という社長が全国を探してようやく実現した商品だ。中身は純米大吟醸。フルーティーで爽快な味わいは、なるほど大自然の中で贅沢に味わうのも一興だ。

(左から)
大吟醸純米 マエストロ
純米協奏曲 蔵粋
桜ピチピチ生
蔵粋スキットル

 東日本大震災では、江戸時代や明治時代に建てられた蔵もほとんど被害はなかった。しかし、やはり風評被害は避けられず、売上げは極端に落ち込んだという。

 「それでも変わらず買ってくださるお客様がいらっしゃったのには有難いと思いました」。最近は、これまであまりやらなかった東京の百貨店での試飲販売なども積極的に行っている。「売れなくてもいい。その位でなければ本当の酒造りはできないかもしれません」。小原社長はひたすら納得のいく酒造りを目指し、それが「蔵粋」をはじめ、小原酒造の新しい伝統を築いていく。

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