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新・酒蔵探訪 11 2012年9月

榮川酒造株式会社


耶麻郡磐梯町大字更科字中曽根平6841-11
Tel.0242-73-2300
http://www.eisen.jp/website/index.html

▲宮森優治社長

 福島県のシンボル、磐梯山。榮川酒造の酒蔵は、その西山麓の深い森に抱かれるようにある。ここは日本名水百選にも選ばれた「磐梯山西山麓湧水群」で知られる名水の地。前社長が昭和末期に良水を求め会津一円を歩き回り出合ったという。近くには9世紀に高僧・徳一が開いた「慧日寺跡」があり、傍らに引水された「龍ヶ沢湧水」は多くの観光客の喉を潤している。磐梯山の恵みである清冽な湧水こそが、会津の米を育て、榮川の清らかな酒を作り上げている。

 平成元年に新設された酒蔵は、昨年の東日本大震災でも被害をほとんど受けなかった。しかし、県内各地で大きな被害が生じ、流通や販売もままならない状況はしばらく続いた。「改めて、水の大切さ、ありがたさを思い知りました」と、宮森優治社長は震災を振り返る。

 「幸い水が無事だったので、水を汲みに来た方にはもちろんお分けし、会社のタンクローリーで得意先や病院などに水を持っていきました」。透析病院では、人工透析の際に使う水として重宝されたという。

 また、応援需要はあったものの、やはり観光客の減少など風評被害を免れることはできなかった。「それでも、酒造組合では水や製品の放射線確認などにいち早く取り組み、風評被害を未然に防ぐ努力をし、比較的被害は少なかったのではないかと思います」。宮森社長は組合の需要開発委員長としても、忙しい日々を送ってきた。

▲蔵外観

 榮川酒造では未来を見据え、経営品質の向上やブランド展開、そして地域との関わりを大切にした企業活動を進めている。「世の中がめまぐるしい変化を続ける中で、社員重視や顧客本位、社会との調和といった、企業のあるべき姿をめざす考え方のようなものをきちんと決めておこうと考えています。また、『榮四郎』は我が社の高級酒ブランドとして知っていただけていると思いますが、今後は『特醸』など日常酒としての『榮川』ブランドをどう定着させていくかが課題だと思っています。そして、やはり地域の一員として、地域の祭りなどに積極的に関わり、共に活動していきたいと思っています」。

 今年6月、「フューメ・ピッチカート」という新商品が誕生した。これは、イタリアのファッションバッグブランド「オロビアンコ社」が東日本大震災の復興支援のため、日本の伝統産品への支援を申し出たことがきっかけとなり実現。以前から宮森社長が商品開発を相談していたイタリアンシェフ、萩原雅彦氏の監修のもと、イタリア料理に合う微発砲酒として開発された。アルコール分12%、辛口の微発泡酒で、さわやかな飲み口はなるほどこれまでの日本酒にはない味わいだ。「これからの日本酒の一つの道筋として、その突破口になればと思っています」。この商品の売上げの一部は、復興支援のために寄付される。

 他にもオーク樽で約1年、さらにビンで4年以上熟成させた焼酎「ゴールド秘酎」やノンアルコール「造り酒屋のあまざけ」など、魅力的な商品が揃う。

(左)大吟醸「榮四郎」
(中)辛口「榮川」
(右)フューメ・ピッチカート

   酒は、必ずしも主役ではない、人と人をつなぐ仲介役だと思っています。その仲介役である酒がおいしければ、いいつながりを生むでしょうし、逆においしくなければ仲介役としての役目を果たせないかもしれません」。榮川酒造が目指すのは、人と人との間を円滑に取り持つ酒。これからも磐梯山の雄大な自然を詰め込んださまざまな酒を醸し、人と人との縁や絆を結んでくれるに違いない。

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