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新・酒蔵探訪 12 2012年11月

有限会社 仁井田本家


郡山市田村町金沢字高屋敷139
Tel.024-955-2222
https://1711.jp/

▲スタッフのみなさん

 郡山市東部。周囲に広がる田は、ちょうど実りの季節を迎えた。取材に伺った数日前、仁井田本家では年間を通して酒造りを体験する「ふれあい体験」の稲刈り、そして創業301年祭が催された。

 昨年創業300年を迎えた仁井田本家。そんな節目の年に、東日本大震災が起きた。「被害としては蔵の一部が損壊した程度で、すぐにでも仕込みを再開できる状況でした」と、仁井田社長。しかし、県内外で大きな被害が出たことをニュースで知り、また県内で水道が止まったところがあると聞き、社長自ら知り合いの会社などに水を配っていたという。そんな折に原発事故の一報を受けた。「とりあえず従業員のほとんどは自宅待機として、私と数人の従業員で仕込みを終え、後は成り行きを見守るしかありませんでした」。

 仁井田本家の酒は農薬や化学肥料を一切使わない「自然米」で仕込まれる。この「自然米」で仕込まれた「金寶自然酒」が登場したのは昭和42年のこと。いわば自然酒のさきがけとして、全国に多くのファンを獲得してきた。原発事故の風評被害は、そんな仁井田本家に少なからぬ影響を及ぼした。「自然酒、つまり全量無農薬にこだわるお客様は、やはり事故の影響にも敏感です。もちろん、心配してくださったり、復興応援で買ってくださる方もたくさんいらっしゃいました」と、仁井田社長。しかし、一方的に取引を打ち切られた取引先もあったという。また、取引を継続したところも、自然食にこだわる店などでは、より厳しい線量のチェックを行うようになった。仁井田本家では、事故後間もなくからガイガーカウンターを購入し周囲の放射線量を計るとともに、米や水、製品についてもチェックを細かく行い、安全性のPRに努めている。

 東日本大震災以降、改めて〝福島県産〟へのこだわりが強くなったと仁井田社長。「無農薬栽培にこだわり、がんばってきた農家がやはり風評被害で苦しんでいる。そんな農家の少しでも助けになればと米を買い、今年は酒米を作っていただくことにしました」。仁井田本家が長年貫いてきた自然へのこだわりが、新たな絆となって育ち始めている。「福島県で生きていく。そんな地元意識が強くなりました」。

 仁井田本家の酒は自然米100%かつ、100%純米造り。「自分が飲んで美味しいと思う、旨みのある日本酒」という大前提のもと、独特の四段仕込みで造る「自然酒」ブランド、福島県ブランドにも認定されている「穏」ブランド、そして自社田米を使って醸造する「田村」ブランドの3つのブランドを柱とする。さらに現在、「発酵」という視点での商品開発が進められている。ノンアルコールの「金寶あまさけ」や、「米グルト(マイグルト)」、さらに「自然米の塩麹」、「自然米の米麹」などが発売され、話題となっている。

 冒頭に紹介したように、この秋、仁井田本家では「301年祭」の蔵開放が行われたが、社長は目標の一つに「蔵にきてもらう」ことを掲げている。〝造り手が見える、お客様が見える酒造りをモットー〟に、出来るだけお客様の近くで、より深いお付き合いができるような営業活動を心がけているという。「魅力ある蔵をつくり、蔵に来ていただく。それが一番の営業活動だと思っています」。

▲特選自然酒/穏特別純米酒/米グルト/塩麹

 仁井田本家では、平成21年に農業生産法人を設立した。豊かな自然、きれいな川、元気な田畑。すべて酒造りのために必要な要素だ。地元、田村町を自然豊かな山や川、元気な田畑のある本物の田舎にすることこそ、仁井田社長の夢だという。「最終的には自給自足を目指したいと思っています。そして、ここにこの蔵があって良かったと言っていただけるような、存在価値のある蔵でありたいと思います」。創業300年という節目。そして東日本大震災という忘れられない出来事を経て、仁井田本家は次代に繋ぐ一歩を踏み出した。

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