新・酒蔵探訪 15 2013年2月
渡辺酒造本店
郡山市西田町三町目字桜内10
Tel.024-972-2401
http://www.yukikomachi.co.jp/
▲渡辺康広社長
郡山市西田町の渡辺酒造本店は、平成24年福島県秋季鑑評会で、吟醸・純米の両部門で県知事賞を受賞するという快挙を成し遂げた。「ずっと目指していたダブル受賞を達成して、嬉しかったですね」と喜ぶ渡辺康広社長。東日本大震災後、福島の酒づくりを守るために文字通り東奔西走してきた渡辺社長にとっては、喜びもひとしおだったに違いない。
震災によって蔵は、工場の損壊など大きな被害を受けた。しかし、その復旧に当たる間もなく原発事故が起きる。「これは大変なことになると思いました」。実は、渡辺社長は新潟大学農学部で土壌学を専攻し、放射線についても学んできた。また、福島県酒造協同組合では理事、そして酒米対策委員長を務めている。「福島の米を、水を、酒を守らなければならない」とすぐに行動を開始した。 まずは米や酒の放射性物質を検知する手段とルートを確立し、同時に水のろ過の徹底など注意点を各酒蔵に連絡した。「放射能対策は、県全体で行なわなければならないと思います。そのためにも強いコンセンサスが必要でした」。
渡辺社長はまた、自らも米作りをしていることもあり、安全な米を作るための農家支援にも取り組んでいる。これまで県内各地で講演を行い、カリウムの有効性などを訴えてきた。「米づくりは福島の基幹産業であり、県内65社の酒蔵で福島の米を使っています。米の存在を抜きにして福島県を考えることはできません」。元素周期表を語呂合わせで説明するなど、わかりやすい説明で一人でも多くの人に理解できるよう努め、行動を呼びかける。渡辺社長の講演を聞いた人は、延べ1200人を超える。
渡辺酒造本店では、もともと地元の米や水を活かし、その個性を発揮できる付加価値の高い酒造りを目指してきた。「その姿勢は今も変わりません。ただ、現実を受け止め、科学的に受けたダメージは科学的に除去し、そしてより良い品質の酒を作り上げるよう努力しています」。北国の美酒、東北福島の美味しい酒でありたいとの願いをこめた「雪小町」の名前の通り、芳醇辛口で切れの良い酒が揃う。「純米大吟醸美山錦」「純米吟醸原酒」は、いずれも福島県産美山錦100%使用。「純米吟醸あさか舞」は郡山産ひとめぼれ100%使用。地元の米で安全な、そしておいしい酒を作り続ける。今年は県知事賞のダブル受賞ということで、作りの現場ではひときわ気合いが入っているという。
さらに、蔵では震災後は地元の梅やブルーベリーを使った商品開発も進めてきた。「果実農家も原発事故の風評被害で非常に苦労をしています。こちらも安全な栽培を勧めるとともに、少しでも役に立てるならと商品にしています」。郡山市中田町産のブルーベリーを使った「特製青苺酒」も一昨年から発売し、好評を博している。
「風評被害はまだまだ続くと思います。安心、安全の担保はもちろん、これからは〝おもてなし〟によって風評の払拭をはかっていきたいと思っています。福島県に来ていただき、景色や人に触れる。さらにおいしい料理、おいしい酒でもてなし、『うまかったよ』と言って帰っていただく。そんな〝おもてなし〟を県全体でやっていくことが必要なのではないでしょうか」。もちろん渡辺酒造本店では、酒の品質でもてなしたいと渡辺社長は言う。
(左から)純米大吟醸 美山錦/純米吟醸原酒/純米吟醸あさか舞/特製青苺酒
昨年12月の「原子力安全に関する福島閣僚会議」に合わせて開かれたワークショップで、渡辺社長は県内の農業や食品製造などの関係者とともに参加、それぞれの取り組みなどを発表し、意見交換をした。その席で行なわれた鏡開きでは、海外からの参加者に鏡開きの意味や乾杯の仕方を説明し、渡辺社長の掛け声で皆が「乾杯」と盃を掲げた。渡辺社長の努力は、こんな瞬間に一つずつ実を結んでいる。
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