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新・酒蔵探訪 16 2013年3月

株式会社寿々乃井酒造店


岩瀬郡天栄村大字牧之内字矢中1
Tel.0248-82-2021/Fax.0248-82-2071
https://www.suzunoi.jp/

▲鈴木丈介会長

 岩瀬郡天栄村牧之内。かつての街道沿いに静かに佇む松の大木と立派な門構え。以前、蔵を訪ねてから5年。「あれから何も変わっていませんよ」と、代表取締役会長の鈴木丈介氏がにこやかに迎えてくれた。

 寿々乃井酒造は文化8(1811)年の創業と伝えられる。震災では、100年は経ているであろう蔵の壁が大きく崩れ、保管していた商品にも被害があった。しかし、タンクや瓶詰めラインなどには大きな被害はなく、間もなく元通りの製造が可能になった。蔵の方も、昨年秋には修繕が終わり、左官屋さんいわく「今まで以上に長持ちする」頑丈な蔵になった。裏山の湧き水も、震災直後こそ濁ったものの、間もなく元通りの水質そして水量に戻った。風評被害による売上げの減少も、地元消費の割合が高いこの蔵ではそのマイナスも最小限で済んだという。

▲蔵外観

「変わらないのが一番」と、鈴木会長は重ねて言う。原料や水、商品の放射線量の検査はもちろん行なっているが、それ以外は震災前と変わらない造りが続けられている。「うまい酒というのは、水や気候風土などの環境、原料や水、職人の技など、何拍子も揃っていなければ生まれません。うちの酒を飲んでくださる地元の方もおいしいと言ってくださる。その味をそう簡単に変える必要はありません」。蔵の裏手にある、まるで蔵を包み込むような山には、湧水の流れる沢にワサビやミズバショウが自生し、ホタルやムササビなども生息するという。寿々乃井の酒は、まさにこの豊かな自然があってこそのものだ。

造りを仕切るのは南部杜氏が長年培ってきた技。「手を抜かない」ことを基本に丁寧に造る。これもずっと変わらず続けてきたことで、これからも変わらず続けていくことだ。

 ずっと「本格寿々乃井」が中心で、今も普通酒が8割を占める。一方で鑑評会で優秀な成績を収め、特定名称酒の評価も高い。中でも人気なのが「寿月」だ。フルーティーでなめらかな喉越しで、まるで裏山の湧水そのままのような透明感のある酒だと表される。

(左から)
純米吟醸寿月
寿々乃井純米大吟醸
清酒寿々乃井
本醸造寿々乃井

 全日本国際酒類振興会主催の民間最大規模の「全国日本酒コンクール」の純米酒部門で日本一に輝いたこともある。こちらも各種鑑評会で連続金賞を受賞した「寿々乃井 大吟醸」は、ふくよかな風味とバランスの良い味わい。「本醸造寿々乃井」、「清酒寿々乃井」も切れの良い、やさしい飲み口の酒だ。「私も毎日飲んでいますが、一杯飲んだらもう一杯飲みたくなる。そんな酒だと思います」。

 最近の発酵食品ブームもあって、酒粕も人気だという。「発酵食品にもいろいろありますが、やはり酒粕は日本人に一番合っていると思います」。そんな発酵食品も含め、やはり日本酒の魅力をさまざまな形で訴え、広めていくことが必要だと鈴木会長。「蔵元一件一件の力は小さいものです。だから、さまざまな形で力を合わせることも大切です」。日本酒のおいしさ、そして健康や美容への効果などもどんどんアピールして、たくさんの人に日本酒を飲んでもらえるようになればと言う。

 春には山で山菜を採り、畑で野菜を育てる。湧き水を汲み、酒を醸す。すべてが昔と変わらない。「半分、自給自足のような生活です」と会長は笑うが、まさに自然体な暮らし、自然体な酒造りに、うらやましさも覚えた。

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