新・酒蔵探訪 17 2013年4月
夢心酒造株式会社
喜多方市字北町2932
Tel.0241-22-1266/Fax.0241-25-7177
http://www.yumegokoro.com/
▲東海林伸夫社長
喜多方市の夢心酒造㈱は、県内の酒蔵の中でも東日本大震災の被害が最も少なかった蔵の一つと言えるだろう。被害を尋ねると東海林伸夫社長は「空瓶が2本だけです」と答えた。蔵の壁が落ちるといった被害もあったそうだが、震災の数日後から会社は通常の態勢に戻っていたという。「ガソリンも何とかなったので、震災後は郡山などに水を運んでいました」。
風評被害についてもほとんど実感はなかったという。「むしろ、震災後に県外の酒屋さんがいつもより大量の注文をくださったり、たくさんの方に応援していただきました」と東海林社長。東海林社長は2008年に社長に就任したが、そのときのインタビューで「小売店との信頼関係を大切にしたい」と話しており、実際、首都圏をはじめ社長自ら全国を駆け回り、小売店や飲料店で精力的に自社の酒をPRしていた。そんな夢心だからこそ全国に根強いファンを持ち、そのファンとの絆は風評で切れるものではなかったのだろう。「東京大森の商店街では、昨年から「福島復興祭」と題して町ぐるみで福島県の酒を応援するイベントを開いてくださるようになりました。震災をきっかけに、新しいおつきあいも生まれています」。
▲酒名の由来となった朝日稲荷に名を取った「朝日蔵」
県内の酒蔵の団結も強かった。毎年酒蔵などの有志が集まって行なっていた会津での花見は震災後も例年通り行い、浪江で被災した酒蔵や被災地を取材していた雑誌ライターなども参加して例年より賑やかに、また、お互いを励ましあう席となった。その後、被害の大きかった蔵には「何が足りない?」「これを使いませんか?」と、蔵同士で造りの道具を譲り合ったり情報交換をしたりしているという。
「震災で一番感じたのは、正しい情報の発信をしなければならないということでした」。震災を振り返り、東海林社長は言う。地元産、〝福島〟にこだわる酒造りをしてきた社長は、特に米については当初から細かく検査をして、ダメなものは使わないと決めていた。しかし、自らも何度も契約田に足を運び、目で見て、もちろん数値も確認し、喜多方は大丈夫だと確信した。その情報をホームページなどで発信し、小売店や消費者に安心してもらうことに心がけたという。そして、震災前と変わらない酒造りが続けられている。
東海林社長は、これからの日本酒について〝季節商品〟という新しいカテゴリーが確立しつつあると見ている。「以前から新酒や、秋のひやおろしといった季節ならではの商品はありましたが、近年、首都圏を中心に〝夏吟醸〟や〝夏純米〟といった季節に合わせた商品展開が目に付くようになってきました。そしてそれは、昨年頃から全国に広まっているように思います」。今後は、そんな商品展開を積極的にかんがえて行きたいという。「市場が多様化する中で、日本酒の幅でできることをやっていきたいと思います」。
(左)純米無濾過生原酒夢心
(右)スパークリング Dreamheart
そんな夢心から震災後に登場したのが「純米無濾過生原酒 夢心」。福島県が開発した酒米「夢の香」の純米酒だ。新酒らしいフレッシュ感が楽しめると、酒米「五百万石」で仕込む純米酒「奈良萬」に親しんできた人からの評価も上々だという。また、「スパークリング Dreamheart」は、生酒に炭酸ガスを封入した発泡性の日本酒。敢えて19度という高めのアルコール度にすることで、日本酒の味をしっかり残しながら爽やかに飲めるという。
夢心が目指すのは「うまい酒」ではなく、「うまいといわれる酒」だ。そのためにも消費者や小売店と直に接する機会を大切にしたいと東海林社長。そしてまた、瓶詰め時にはその都度自ら確認するなど品質のチェックも怠らない。県内外での高い評価に、今更ながら納得させられた。
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