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新・酒蔵探訪 18 2013年5月

有限会社金水晶酒造店


福島市松川町字本町29
Tel.024-567-2011
https://www.kinsuisho.com/

▲斎藤正一社長

 福島市松川町。旧4号国道に面する金水晶酒造店は昨年、店舗建物を一新した。それまでの木造60年の建物は東日本大震災で半壊。商品や製造ラインにも被害を受けた。震災が起きた当日、斎藤正一社長は、福島県のブランド認証を受けるため県庁に行っていた。「蔵に戻って間もなくでした。社員が無事だっただけでも良かったと思います。県内には甚大な被害を受けたところもあるのですから」と、振り返る。

 しかし、地域密着で酒を作ってきた蔵は、さまざまな部分で震災の影響を受け、対応を迫られてきた。「何よりも米の確保に苦労しました」と斎藤社長。「一時は掛け米に県外産の米を使ったものの、どうにも納得のいく酒ができない。水と合わないんですね」。明治天皇に献上したこともある名水と地元の米があってこそ、銘酒「金水晶」が醸されることを、改めて実感したという。また、米の線量検査の徹底により、入荷の遅れもあった。これまで金水晶にオリジナルの酒作りを依頼していた近隣の町村、団体などの中には、酒作りを断念したところもあった。

▲蔵外観

 そんな中で、復興のために何かしようという動きもある。今年2月、福島小売酒販組合がオリジナルの日本酒「福福竜神」を限定販売。金水晶で県内の酒米「五百万石」を用いて仕込んだ。県北地区の小売店などで販売したが、あっという間に完売した。「地域の方々の地元を大切に思う心が伝わってきました」。6月には東北6県の祭りが集結する「六魂祭」が福島市で開催されるが、現在それに向けての商品を企画中だという。

 「何事も継続することが大事だと思います」。斎藤社長は言う。「私達が作った酒は、卸や小売店を通して消費者の皆さんに届きます。農家では原料となる米を作る。その全部があって初めて消費者の満足に繋がります。決して欲を出さず、自分の仕事を続けることが大切です」。斎藤社長はまた、酒作りには正解はないと言う。「微妙な加減でまったく違う酒になる。搾りのタイミングなど、その見極めはどれだけやっても難しいですね」。

▲大吟醸/純米吟醸/純米生貯蔵酒

 この春金水晶は、福島県酒造組合の春季鑑評会で、夢の香の部で県知事賞を受賞した。これは長年積み重ねた技術と努力があってこその受賞だ。

 福島県のブランド認証を受けている大吟醸や純米吟醸は、ギフトの定番として人気が高く、また、純米生貯蔵酒はアルコール控えめで、爽やかな飲み口が女性にもおすすめだ。これからの季節、冷やしてそのまま気軽に食卓に乗せられる三百ミリリットル飲みきりサイズが便利。

 「昔から百薬の長と呼ばれてきた日本酒ですが、今、発酵食品として改めて注目されています。国際的にも日本酒が見直されている中で、日本の文化として日本料理と共に世界に広まっていくのではないでしょうか。私達も、短期的に目先のことを見るだけでなく、未来に日本酒という文化を継承していかなければならないと思っています」。金水晶はこれからも地元の復興に尽力しつつ、受け継がれてきた伝統を守り次代に繋ぐ。

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