新・酒蔵探訪 19 2013年6月
千駒酒造株式会社
白河市年貢町15-1
Tel.0248-23-3057
https://senkoma-shuzou.co.jp/
▲櫻井慶社長(左)と菊地忠治杜氏
古くから、みちのくの玄関口として人やものが行き来してきた白河。小峰城の城下町として栄え、また、戊辰戦争最大の激戦と言われる「白河口の戦い」が繰り広げられたことでも知られる。
千駒酒造の前身である池島酒造店は、そんな白河市に大正12(1924)年に誕生した。「千駒」の名は、ここが馬市がさかんであったことから、若駒の蹄の音やたくましい姿、そして人々の健康を祈る思いを酒に込めたものだという。歴史ある土地で、地元に愛されてきた地酒は今、新しい一歩を踏み出している。
蔵は、東日本大震災で、土蔵が崩れるなどの大きな被害を受けた。その修復や、原発事故後の対応などに追われるさなか、2012年4月、櫻井慶氏が新社長に就任した。櫻井社長はまず、米の手配に奔走。「原発事故が起きてすぐに、これは次の酒米の入手が困難になると思ったからです」。案の定、浜通りを中心に米の生産は大きく減り、さらに放射性物質の検査に時間がかかり、多くの酒蔵は造りの時期をずらすなどの影響を受けた。そんな中、千駒酒造は早くから県外の米を手配するなどして対応してきた。
▲蔵外観
中でも北海道産の酒造好適米「吟風」との出会いは、蔵に新たな銘酒をもたらした。「鑑評会の入賞酒も生んでいる米として注目していました」と、櫻井社長はいち早く購入を決めた。菊地忠治杜氏も「特等級の良い米だったこともありましたが、扱いやすく麹もつくりやすい。きれいな酒ができました」と、話す。原料米にこの北海道産吟風100%使用した「千駒 純米生原酒」は、米の旨みとともにすっきりとした清涼感のある酒に仕上がったという。
もちろん、地元産のチヨニシキや五百万石といった米を使用した酒も造り、高い評価を得ている。五百万石を用いた「純米吟醸 千駒」は、白河市の農産物ブランド認証品として認定されている。今後はさらにそれぞれの米の特性を活かし、あるいは異なる米の組み合わせなども考えているという。米不足というピンチを、逆にチャンスに変えたのだ。
人気の焼酎「いちぶん」も、原料の芋を「紅高系」に変えた。蒸留方法も工夫して、米と芋の調和のとれた味になったという。さらに、日本酒ベースの「うめ酒」には南紅梅を使用。香り豊かなまろやかな梅酒は、実は蔵の隠れた人気商品だ。このように以前にも増して材料にこだわり、その素材の魅力を最大限に引き出した商品を生み出している。
(左から)
純米生原酒
純米吟醸
いちぶん
優良酒
その、極上の素材を見極め、極上の酒に仕上げるのは杜氏をはじめとした蔵人達。「小さな蔵ですから、できる範囲のことを丁寧にやるだけです」と菊地杜氏。蔵のモットーは「手を抜かないこと」。基本的に1年で売り切る分量の酒しか造らないというのも、酒は生き物であり、常においしい酒を飲んでもらうために、すべてに目の行き届いた酒を提供したいという思いからだ。
「毎日の食卓で楽しんでいただく優良酒(普通酒)も質を高めていきますが、これからは、特定名称酒の割合を増やし、純米大吟醸や吟醸など、より個性のある酒を造っていきたいと考えています」と、櫻井社長は言う。地元の蔵として、地元に愛されてきた伝統と味を残しつつ、より「千駒」らしい酒造りを目指す。米などの原料へのこだわりも、その第一歩だ。
今回、蔵の改装を行い、趣のある外観はより酒蔵らしい雰囲気となった。歴史ある白河の街にふさわしく、観光客も目を留め足を運ぶに違いない。
「新生・千駒」。その大きな飛躍に期待したい。
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