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新・酒蔵探訪 20 2013年7月

鶴乃江酒造株式会社


会津若松市七日町2番46号
Tel.0242-27-0139
https://www.tsurunoe.com/

▲向井洋年統括部長

 東日本大震災から2年余り。「今年はようやく観光客も戻ってきたように思います」。そう話すのは、会津若松市七日町に蔵を構える鶴乃江酒造の七代目当主、林平八郎氏だ。七日町といえば明治、大正、昭和初期に建てられた古い商家が並ぶ町並みが、戊辰戦争など歴史に所縁のある寺社とともに多くの観光客を惹きつけてきた、会津でも屈指の観光名所だ。そんな七日町通りに鶴乃江酒造は寛政6(1794)年に創業した。明治初期より用いている「鶴乃江」という名も、「鶴」は会津のシンボル「鶴ヶ城」、「江」は猪苗代湖を表す会津らしい名前だ。

 東日本大震災では、明治時代に建てられた蔵の壁が大きく崩れた。「私は事務所にいたので、慌てて蔵に駆け込んだのですが、蔵の中は土埃で真っ白でした」と、統括部長の向井洋年氏は当時を振り返る。しかし、既に酒造りは終わっており、機械やタンクにも損害はなく、商品の損害はほとんどなかったという。風評被害や観光客の減少といったダメージも少なからずあったが、逆に福島の酒を応援しようという動きもあった。首都圏で試飲会を開く機会も増え、それは新しい顧客との出会いとなった。

▲改修が終わり白壁が美しい外観

▲趣のある蔵の内部

 そして、今年は大河ドラマ「八重の桜」効果もあって、観光客も戻ってきた。「まだ、県全体でトータルとして震災前の水準には戻ってはいません。会津に目を向けていただいている今だからこそ、これをチャンスにできればと思っています」。

 会津松平藩租、保科正之の官位を冠した「会津中将」は、鶴乃江酒造の人気商品だ。昭和52年に誕生した。この道40年の坂井杜氏が昔ながらの手造り製法にこだわり、丹精込めて醸す。正に日本酒の王道を行く酒。

 一方、林社長の長女、ゆりさんと、酒造技能士の資格を持つ母、恵子さんが母娘杜氏として醸す酒「ゆり」は、女性ならではの繊細な気配りが施された優しい酒と、1997年の誕生以来高い人気を得ている。女性杜氏の酒の草分け的存在の「ゆり」も、誕生以来15年余りを経て、今では「会津中将」とともに蔵の看板となっている。

 また、鶴乃江酒造がかつての屋号を冠した「永宝屋」は、福島県産米にこだわらず、酒造りの可能性を広げようと誕生した。中でも「会津中将」シリーズでも使っている酒造好適米「八反錦」は、手間がかかり扱いが難しい米だが、それだけに個性のある酒が生まれるという。

 「これからは、もっと消費者に近い形でアプローチしていく必要があると思っています」と、林社長。震災後は特に、首都圏の居酒屋などでお酒を飲む会などを開き、そこで直接消費者とふれあい、話をしながらアプローチをすることが増えているという。時代の変化とともに、酒の飲み方も変わってきている。そんな変化もとらえ、取り入れながら、時代に応じて蔵も変わっていくと、林社長。「造りの手間など、もちろん変わらないものもあります。日本酒はおいしい料理と一緒に楽しむものだということも変わりません。しかし、より自由に、気分に合わせて飲むようになってきています。造り手もそんな消費者のニーズに合わせた品揃えをしていかなければならないと思っています」。

(左)会津中将 純米酒
(中)会津中将 純米大吟醸
(右)大吟醸ゆり

 崩壊した蔵の壁も、この春修繕を終え、真っ白に輝いている。6月には、新酒鑑評会で金賞受賞という嬉しいニュースも届いた。「酒は、日々に活力を与えるものです。飲む人に元気を与えられる、そんな酒を届け続けたい」。和醸良酒。蔵人が力を合わせて良い酒を醸す姿はずっと変わらない。

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