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新・酒蔵探訪 22 2013年9月

合資会社 稲川酒造店


耶麻郡猪苗代町字新町4916
Tel.0242-62-2001
https://sake-inagawa.jimdo.com/

▲蔵の外観

 「猪苗代」という地名の起源は、昔、野猪に苗代を耕作させたからという説や、アイヌ語だったという説などさまざまな説がある。いずれにしても、磐梯山などの噴火活動により4~5万年前には今のような地形になっていたそうで、山や湖の自然に恵まれたこの地には1万2千年前頃から先住民が住んでいたといわれる。

 山や湖の恵みは、酒造りにも欠かせないものだ。嘉永元(1848)年に創業した稲川酒造店は、正に猪苗代の恵みを受け、酒を醸す。「稲川」の名前も、米=「稲」、そして磐梯山の伏流水=「川」を現し、名づけられたという。「稲川」、そして代々当主が襲名してきた「七重郎」の2つの銘柄で、地元の人々に愛される酒を造り続けている。

▲塩谷隆一郎さん

 現在、蔵を率いるのは6代目となる塩谷隆一郎さん。「七重郎」の銘柄を世に出し、より品質の高い酒造りを目指してきた先代は、震災後間もない2011年8月に急逝した。震災で土蔵の壁が落ちるなどして、その対応に追われる中でのことで、引継ぎもほとんどできないような状態だったという。それから既に2年が経ち、蔵はようやく落ち着きを見せてきた。もともと人造りを大切にしてきた先代が、蔵人のチームワークを培ってきた。現在は、27歳で杜氏となって十年余りというまだ若い阿部杜氏のもと、さらに心を一つにして酒造りを行なっている。「いろいろなことを、皆でよく話し合って決めるようにしています」と隆一郎さん。

 そんな真摯な酒造りは、先代の頃と変わらず高い評価を得ている。2011年1月に誕生した「七重郎 純米大吟醸無濾過原酒 山田錦仕込み」(白ラベル)は、新酒鑑評会で2012年、2013年の2年連続で入賞。また、この春の第94回南部杜氏協会自醸清酒鑑評会でも全国で3位を獲得した。「『七重郎』の白ラベルは震災直前に先代が発売したものです。その酒が高い評価を得たことは嬉しいことですし、またこの酒が生まれていたことで、私達も非常に助かりました。先代に感謝しています」。「七重郎」は時間も手間もかかる酒だが、それだけに鑑評会での高評価は蔵人の喜びも大きく、自信となっているに違いない。

(左)七重郎 純米大吟醸 無濾過原酒
 (黒ラベル)
(中)稲川 にごり酒原酒
(右)長期熟成秘蔵酒 琥珀の神秘

 「七重郎」は白ラベルの他に「純米大吟醸無濾過原酒 五百万石仕込み」(黒ラベル)、「純米吟醸無濾過原酒」(赤ラベル)、「特別純米酒無濾過生詰原酒」(青ラベル)の4種が顔を揃え、それぞれ異なる味わいを楽しませてくれる。また、「稲川」銘柄の普通酒や「金紋本醸造」、さらい「にごり酒」や「にごり酒原酒」も根強いファンを持つ。昭和57(1982)年醸造の酒を、実に30年以上も長期熟成させた「琥珀の神秘」は、一度は味わってみたい正に「秘蔵酒」。個性あふれる商品が揃うが、「できるだけラインナップはスリムにしたい」と隆一郎さん。少数精鋭で、より良い商品を提供したいという。「七重郎 白ラベル」など、人気商品は品切れになってしまうことも少なくない。

 これからの蔵について、隆一郎さんは言う。「代表社員となり、味を変えない、落とさないということを考えてやってきました。これからは、やはり品質を守るところは守り、その中で徐々に新しいカラーを出していければと思っています」。震災後は米の手配など、以前よりも気を配らなければならないことも増えた。しかし、決して手を抜くことなく、蔵が一丸となって前進する。猪苗代の山や川の恵みである米や水、そして人の技が生み出す酒は、これからも変わらず故郷の酒として飲み継がれていく。

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