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新・酒蔵探訪 23 2013年11月

合資会社 喜多の華酒造場


喜多方市字前田4924
Tel.0241-22-0268
http://www.kitano87.jp/

▲星敬志社長

 喜多の華酒造場は大正8年の創業。三代目となる現社長、星敬志さんは1980年に先代の跡を継ぎ、三十余年が過ぎた。

 東日本大震災から3年近くが経ち、売上げ全体としては震災前の状態に戻ったという。「関東地区で開かれた応援キャンペーンなどには助けられました。キャンペーンで初めてうちの酒を飲み、その後リピーターになってくださった方もいらっしゃいます。お陰で売上げは戻ってきましたが、県内はどうにも元気にならない。そこがこれからの課題ですね」と、星社長。キャンペーンでは特に、主力銘柄の一つである「蔵太鼓」を屋号の「金澤屋」の名で販売し、好評を博したという。

 さらに、頭を悩ませているのが米の問題だという。震災以来、県内の多くの酒蔵で酒米の不足傾向が続いている。喜多の華ではかねてより、他の蔵元とともに地元農家に酒米の栽培を依頼してきた。その地元農家の集まりである「ジュイタック」では、低農薬への取り組みや稲を刈る時期など、より良い酒米作りに取り組んでいる。「なんとか安定して酒が作れるよう、米の種類や契約方法などジュイタックとも検討しているところです」。一方、農家ではTPP問題など、今後の米作りに大きな不安を抱えている。「農家の皆さんは良い米を作ろうと努力している。そんな前向きな気持ちを削ぐようなことにならないようにと願っています」。良い米があってこそ、良い酒ができる。だから酒蔵も農家も米について真剣に考えていかなければならないのだ。

 喜多の華では、消費者との繋がりも大切にしている。喜多方市内の酒蔵数軒が、公民館の呼びかけで行なっている「酒造り講座」では、主に県外の喜多の華ファンらが毎年酒造りに挑む。参加している酒蔵同士、酒の出来を比べたり、良い刺激にもなるという。

 手間を惜しまない酒づくり。これはずっと星社長が心がけてきたことだ。「私が先代の後を継いだとき、杜氏は酒造りについて私に何一つ教えてはくれませんでした。だから、杜氏の隙をみて温度を盗み見たりしたものです。でも、ひと口に温度が何度といっても、たとえばタンクの上と下では温度が違う。麹蓋の中央と端でも違うんです。そうなると、やはり数字ではなく、実際の状況を見て判断するしかない。酒ととことん向き合うしかないということです」。時には夜中、「酒に呼ばれているような気がする」と目が覚めることがあるという星社長。「何でも機械化され、コンピュータで制御できる世の中で、酒だけは昔のままなんです」。〝勘〟と〝心〟が肝心なのだ。

 「金澤屋」の名でも人気の「辛口純米 蔵太鼓」はすっきりと飲み飽きしない味が人気の理由。燗もおすすめだ。また、甘口が好みなら、「旨口純米 蔵太鼓」を。こちらも幅広い温度帯で楽しめる。さらに「昔ながらの純米酒のよう」と評価の高い「純米 ほし」は、しっかりした飲み口の純米酒。「日本の将来について語るなら、やはり日本酒でなければ」と、社長の洒落も利いたネーミングの「明日の日本を語る酒」も利き酒会などで人気だという。

(左から)
辛口純米蔵太鼓
旨口純米蔵太鼓
純米ほし
明日の日本を語る酒

 そんな喜多の華の酒造りが、今年は大きく変わろうとしている。星社長の長女、里英さんが蔵の後継者として初めての酒造りに挑むことになった。娘さんが三人ということで、蔵は自分で最後とも考えていた社長。東京で会社勤めをしていた里英さんが、試飲会など蔵の東京でのイベントを手伝ううちに、自ら勉強しなおして蔵を継ぐことを決めた。「もちろんとても嬉しいことです。でも、決して楽な仕事ではないので、手放しでは喜べない部分もあります。これからいろいろな酒を知り、感性を磨いてほしいと思います。わからないことがあれば聞けばいい。そして考えて、自分がおいしいと思う酒を造ってくれればと思います」。社長自身、今も毎年最良の味を求めて努力を続けているという。今年からは父娘二人が手を合わせ、あるいは個性を発揮して、さらなる良酒を醸していくに違いない。

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