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新・酒蔵探訪 24 2013年12月

合資会社 吉の川酒造店


喜多方市字1丁目4635
Tel.0241-22-0059

▲冠木孝社長

 喜多方市の街なか。吉の川酒造店の高い煙突がそびえる。大正時代より百年近い長い年月を経た蔵とともに、東日本大震災も乗り越えた。レンガ造りの六角形の煙突は、今も現役で働いている。

 「地盤が良いのでしょうか。東日本大震災ではほとんど被害がありませんでした」。そう話すのは、冠木孝社長。江戸時代に分家創業した初代から数えて七代目の当主となる。昨年11月、先代が亡くなり、代表社員となった。もともと地元を中心に商売をしてきたこともあり、風評被害などによる売上げの減少もほとんどなかった。「福島県内には、大変な被害に遭った蔵も少なくありません。それを思うと運が良かったのだと思います」。しかし、被害を最少にとどめられたのは、運によるものだけではない。大正時代に建てられた蔵は、1本の木からとった太い梁を何本も使った頑強な造り。当時でも材料となる木を揃えるのに苦労したという。さらに、ホウロウのタンクは、木の蓋の上に重石を載せて安定させている。大地震でも大事な酒をこぼすことなく耐える、正に先人から伝わる知恵と工夫が蔵と酒を守ったといえよう。

▲レンガ造りの煙突

 ふるさとを大事にする吉の川酒造店の酒作りは、昔ながらの作りを丁寧に続ける。「地元に愛される酒というのは、奇抜なものではダメなんです。皆さんが普通に毎日飲める酒。ベーシックな酒をよりおいしく提供できればと思っています」と、冠木社長。そんな社長を先代の時代から支えているのが南部杜氏の川村利見杜氏だ。20代で蔵の杜氏に就き、実に40年が経つという。南部杜氏の鑑評会での入賞歴も多く、地元紫波でも名杜氏として知られる存在だ。

 「吉の川」の普通酒は、普通酒ながら酒造好適米を使う。普通酒を大事にする、つまり地元の人が日常に飲む酒を大切にしているのだ。やや甘口で、香りやキメの良さも自慢だ。一方、純米酒は契約栽培で作られた低農薬の「五百万石」が原料。「手をかければかけるだけ味が良くなる」という言葉どおり、実に丁寧に仕込む。大吟醸は全国清酒鑑評会で五年連続金賞を受賞している。さらに、絶妙の辛さとともにコクと旨みを残した「辛口」もぜひ味わってみたい。「辛口すぎては、焼酎のようになってしまいます。日本酒ならではのコクと旨さを残すことにこだわりました」。

 この秋、蔵に嬉しいニュースが飛び込んできた。平成24年度の東北清酒鑑評会で、純米酒の部の評価員特別賞を受賞したのだ。初めて部門ごとに順位付けが行なわれ、吉の川は純米酒の第2位となった。全国での連続金賞受賞も含め、「杜氏のおかげです」と謙遜する社長だが、確かに気負いはない。首都圏などからの引き合いもあるだろうが、地元重視のスタンスも変えることはないという。地元を大切に、目の届く販路を大切にする。「地元で売るということは、反応もすぐに返ってきます。『昨日飲んだけど、まずかったよ』などと言われてしまいますからね。そんなことのないよう、努力するだけです」。  

(左から)本醸造/純米酒/大吟醸/辛口

 日本酒を飲む機会そのものが減っている中で、喜多方は酒どころとして日本酒の文化を守る役割も担っている。「転勤で喜多方に来て、生まれて初めて日本酒を飲んだという人もいました。そういう話を聞いても、やはり美味しい酒を作らなければと思いますね」。吉の川酒造店の仕込みは12月から始まる。「雪が降れば、大気中の塵も雪と一緒に落ち、きれいな空気の中で仕込みができる。これもまた、理にかなっていると思います」。吉の川は、〝変わらない強さ〟を秘めた蔵である。

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