新・酒蔵探訪 26 2014年2月
白河銘醸株式会社
西白河郡西郷村小田倉中庄司4-2
Tel.0248-25-1121
http://www.shirakawa-meijo.com/
栃木県との県境に位置する西白河郡西郷村。那須連峰の裾野に広がるこの地は、日光国立公園の甲子温泉や阿武隈川の源流など、自然に恵まれた場所だ。
その阿武隈川の支流、堀川沿いに白河銘醸㈱は昭和44年、地元の蔵元6社の共同瓶詰所として誕生した。その後、3社が抜けたことから大谷醸造、有賀醸造、大谷忠吉本店の3社が残り、それぞれ自らの蔵の特長ある酒に加えて商品開発を進め、多彩な切り口で幅広い客層の支持を受けている。「昔から酒は、決して〝ハレの日〟だけに飲むものではないと思います。普通に毎日飲める、安心でしかもリーズナブルな価格の商品提供を目指してきました」。豊富なアイテム数、手に取りやすい商品は広く県内外に受け入れられてきた。
社長の大谷恭太郎氏は、白河市で古くから酒を造ってきた大谷醸造に生まれ育った。「火事などで過去帳も失われ、はっきりしたことはわかりません」と、大谷社長。しかし、言い伝えによると7世紀頃から酒造りを始めたともいわれる。白河地方は大和朝廷の蝦夷防衛の要所だったが、おそらくはその際にこの地に入り、酒造りも始めたのではないかという。代表銘柄である「谷乃越」は地元に長く親しまれている。
「ここは地盤が固いんです」と社長が言うとおり、東日本大震災では空瓶が割れた程度で大きな被害はなかった。しかし、原発事故による風評被害は未だに続く。「原発事故後間もなく、ミネラルウォーターの取引はほとんどなくなりました。未だに回復しません。地域ブランドの商品もなくなったものや新たに誕生したものなどさまざまですが、全体として震災前の水準には戻っていませんね」。
そんな風評を払拭すべく震災後は営業に力を入れ、基幹店での店頭説明会などを開催して安全を訴えるなど、新たな努力を続けているという。しかし、震災や原発についての報道があったりすると売上げに影響が出るなど、まだまだ時間はかかると大谷社長。
また、今でこそ順調に米が手に入るようになったが、それまでは酒米の入荷が遅れ、造りに影響が出たこともあった。ここでは普通の食米での仕込みを行うが、それは酒米よりも技術を要する。そんな苦労も、すべては安くて安心な酒を届けたいという思いからだ。さらに、消費者の品質へのこだわりが高まる中、より良い酒造りにも心を砕く。これからも変わらず、普通の人が普通に飲む普通の酒を造っていきたいという。
▲谷の越 純米吟醸/米だけの酒/のんでみやがれ
そんな思いが形になった酒が震災前から人気の「米だけの酒」だ。酒税法では純米酒は、米麹が15%以上と決められているが、この「米だけの酒」は12%ほど。酒税法上は純米酒とはいえないが、醸造用アルコールや糖類などの添加は行なわず、文字通り米だけの酒だ。飲みやすく、値段もリーズナブル。
純米吟醸原酒「のんでみやがれ」もおすすめの一本。しっかりとした味わいと喉越しの17度原酒は、ロックで味わうとキレが良いという。他にもバリエーション豊かな商品で消費者のニーズに応える。
「今後は、普通酒から純米酒や純米吟醸へのシフトがさらに進むと思います」と、大谷社長。そんな中で、この蔵ならではの工夫を凝らし、消費者に寄り添った酒造りを続ける。
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