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新・酒蔵探訪 29 2014年5月

山口合名会社


会津若松市相生町7-17
Tel.0242-25-0054/Fax.0242-24-6533

▲蔵外観

 寛永20(1643)年、「会州一」を醸すこの蔵の初代は、会津藩祖・保科正之の出羽山形からの移封とともに会津に入った。以来会津を代表する酒蔵の一つとして400年近い年月が経つ。平成17(2005)年には関連事業の破綻により危機を迎えたが、その後も規模を縮小して事業を継続してきた。

 前回、蔵を訪ねたのは平成23(2011)年2月。危機を乗り越え、前年には全国新酒鑑評会金賞と福島県知事賞をダブルで受賞し、初代から15代目に当る山口佳男社長も復活を確信していた。そんな話を伺った翌月、東日本大震災が起きた。

 商品や蔵の被害はほとんどなかったそうだが、流通が途絶えたり避難者が出たりしたことで、酒は売れなくなった。そこで、山口社長は4月から毎週のように東京に行き、小売店を回り、復興支援のイベントなどで酒を販売したという。そしてそれは、東京で多くの人に蔵の酒を飲んでもらうきっかけとなり、結果的に蔵を新たなチャンスへと導いた。「復興イベントなどでお酒を買ってくださる方は、ほとんどがうちの酒をご存知ない方ばかりです。最初は支援の意味で買ってくださって、飲んでみたら福島の酒がおいしいと思ってくださる。そしてまた買ってくださったり、お客様から勧められたという小売店から問い合わせがあったり。もともと製造量が少ないので、あまり東京ばかりで営業していては地元で売る商品がなくなるということで、東京通いは夏頃でやめました」と、山口社長は当時を振り返る。

▲山口佳男社長

 改めて今、地元での営業に力を入れているという。規模を縮小して酒造りを再開する以前は、今の倍以上の酒を製造していた。また、普通酒が8割を占めていたという。「蔵も狭くなり同じ造り方をするわけにはいかず、酒造りを一から見直さなければなりませんでした」。いつ、何を造り、どう販売するか、きちんと計画して製造する。それが社長の一番大変な仕事だという。

 現在は以前とは逆に、特定名称酒が全体の8割を占めるようになった。造りのこだわりは米にある。契約栽培米を増やし、精米歩合を上げた。アイテム数を絞り、より個性のはっきりした酒を出す。「定番に力を入れ、余力があれば他の酒も出せればと思っています」。それでも今のところ、県外の新しい小売店さんなどから声がかかっても数量が間に合わずお断りしたり、遠方から蔵を訪ねてくるファンにも在庫がなく販売できない時もある。「縮小以前に比べ、県内で扱ってくださる小売店さんも増えました。これからも地元を大事にしながら、地道にやって行きたいと考えています」。

▲純米吟醸酒/特別純米酒/純米酒

 山田錦と美山錦を50%まで精米した純米吟醸酒は、やわらかですっきりした味。原料米に会津産「夢の香」、酵母は福島県が開発した「うつくしま夢酵母」を使用した特別純米酒は深みのある味わい。そして、人気の高い純米酒は辛口ながら柔らかい旨みも感じられる。

 震災後の平成24年、25年も全国新酒鑑評会で金賞を受賞するなど、着実に存在感を高めている「会州一」。再びその名前の通り「会津を代表する酒」の一角に名前を並べている。「今も、これからも、会州一でなければできないこと、会州一だからできることは何かを考え、一つずつ重ねるだけです」。存続の危機、そして震災をも乗り越え、この蔵はゆっくりと着実に歴史を重ね続ける。

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