新・酒蔵探訪 30 2014年6月
笹正宗酒造株式会社
喜多方市上三宮町上三宮675
Tel.0241-24-2211
https://www.sasamasamune.com/
▲蔵外観
今回、笹正宗酒造を訪ねたのは5月中旬。「普通、酒屋は冬が一番忙しいものですが、うちでは今が一番忙しいんです」と話すのは、1818年の創業から7代目となる当主、岩田恒典氏。実は、6月の父の日を前にしたこの時期、書道家の手で依頼された名前をラベルにして贈るギフト用の商品に注文が殺到するという。今でこそ全国のメーカーや百貨店などで同様のサービスを行なっているが、笹正宗酒造ではいち早くこのオリジナルラベルを企画し、さらにラベルに記した名前の漢字の由来をもとに「名前の由来書」を添えるなどのアイデアを加えている。
▲岩田恒典社長
2011年3月11日に起きた東日本大震災の大きな揺れは、大正時代に建てられた蔵に大きな被害を及ぼした。幸いその年のつくりはほとんど終わっており、商品への被害はほとんどなかったという。しかし、蔵の修繕に時間がかかったこともあり、翌年の仕込みは例年より大きく量を減らして行なった。冒頭に紹介した通り、この蔵では6月の父の日に向けて、5月から6月に多量の注文を受ける。しかし、2011年は震災と原発事故の風評で大きなダメージを受けた。
それから3年。蔵は落ち着きを取り戻していた。「東日本大震災の後、東北に限らず全国の酒造メーカーの意識が変わったように感じています」と岩田社長は言う。「量を売っていたメーカーも含め、酒質にこだわるようになったのではないでしょうか。いい酒を安く売る。そんな機運になっているように思います」。
▲雪室
以前ご紹介したとおり、笹正宗酒造では全国的にも極めて早い時期から純米酒の製造販売を開始するなど、常に時代と消費者意識を考えた酒造りを行なってきた。依頼者の名前を入れるオリジナルラベル商品もそうだが、基本はやはり〝うまい酒〟にある。飯豊連峰の伏流水、そして地元会津産の酒造好適米をはじめ選びぬいた良質の米を、昔ながらの製法で醸す。「しかし、それだけで生き残るのは難しい。蔵独自の付加価値をつけることで、お客様に選んでいただける、リピートしていただける酒を目指しています」。酒の味とともに、喜びや感動を与える酒造りこそ、笹正宗酒造の目指すものだ。
今年、酒蔵では新たな企画をスタートさせた。7月に解禁する「雪室ヌーボ 天空の浪漫」である。裏磐梯の標高1,200mの地点に高さ5m、幅20m、長さ30mもの大きな雪の冷蔵庫を作り、そこで4月から7月の3ヵ月間無濾過純米吟醸原酒を貯蔵し、熟成させたもの。雪室は湿度100%、温度も1℃程で一定しており、アミノ酸がじっくり熟成するという。昔から雪国では野菜などを雪に埋めて保存してきた。そんな先人の知恵をお酒にも生かそうという試みだ。雪室貯蔵の酒は、雪国では珍しいものではないかもしれない。しかし、今回は雪室の大きさからもわかるように、特定の希少商品としてでなく、一定の商品量を確保している。来年以降の展開にも期待が持てそうだ。
(左から)
大吟醸 オリジナル
名入れ酒 雪室ヌーボ
天空の浪漫
7月5日には裏磐梯で解禁パーティを行なうそうで、そこでは裏磐梯など会津の伝統料理や食材も登場し、地元の産業の活性化の一助になればと岩田社長。「雪室でじっくり貯蔵してきた酒が、一気に空気に触れることで味わいも変化する。さらに再び冷蔵庫で冷やして楽しむ。そんな変化を楽しむ新しい日本酒の味わい方も提案できればと思っています」。
消費者だけでなく、酒を造る酒蔵、そして酒を売る販売者も感動できる。そんな酒造りを目指す笹正宗酒造。「天空の浪漫」に続き、間もなく新たな企画商品も登場するという。どんなうまい酒、そしてどんな感動を味わえるのか、楽しみな限りである。
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