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新・酒蔵探訪 31 2014年7月

合資会社 会津錦


喜多方市高郷町西羽賀字西羽賀2524
Tel.0241-44-2144
https://aizunishiki.business.site/

▲蔵外観

 東日本大震災後、今回で31軒の蔵元を訪ねたが、ここ会津錦は最も被害の少なかった蔵の1つといえそうだ。地震の揺れでは、江戸末期に建てられた仕込み蔵の壁が崩れたりしたそうだが、崩れた下のタンクは運良く使っていなかった。また、商品が落ちて割れたり、事務所の棚が倒れたりすることもなかったという。「ここはむしろ、新潟の地震の方が影響が大きく、昭和39年の新潟地震の時の方が被害が大きかったんです」と、齋藤正孝社長。専務の孝典さんも「3月11日、私は福島に行っていたので、福島での被害の大きさに驚いたのですが、蔵への帰路もそれほど問題なく、蔵の壁が崩れたというのも、後になって気づいたくらいでした」と、当時を振り返る。物流が途絶えたために商品の発送ができなくなったことはあったが、地元を中心に販売するこの蔵では、風評被害もほとんどなかったという。

▲齋藤孝典専務

 会津錦の酒造りは、専務が杜氏として取り仕切るようになって11年目を数える。それまでの蔵人が高齢になったこともあり、社長が思い切った世代交代を図ったのが11年前。「時代の変化に対応することが大事」と、英断を下した社長は、その後専務の酒造りに一切口を挿むことはないという。「それまで、前杜氏の下で修行を積んだわけですが、いざ自分の手で造るとなると、やはり不安はいっぱいでした」と専務。「最初の酒を、たまたま蔵の向かいのおじさんに飲んでもらったんです。そのときおじさんが『うまい』と言ってくれた、その笑顔は今でも忘れられません」。

 その後、自分なりの酒造りを重ねるうちに、「やるべきことがわかってきた」という。「ただ、酒造りは1年に一度のことなので、反省したからすぐに改善できるというものでもありません。だから、1年ごとに一歩ずつです」。しかし、その笑顔に落ち着きが感じられる。

 会津錦の酒は、全て食用米で造られる。「『山田錦』や『五百万石』といった酒造好適米は確かに良い酒が造れる米です。ただ、うちでは『地酒』は地元の材料でという思いから、すべて会津の米で酒を造りたいと思ったのです。その結果、喜多方産の『コシヒカリ』や『天のつぶ』など、地元の食用米で造っているのです」。酒米に比べベタつくとも言われるが、それも分析や経験を重ね問題はないという。「普段皆さんが食べている米で造った酒なので、逆になじみやすいのではないかと思っています」。

(左から)
純米大吟醸
本醸無濾過生原酒「こでらんに」
純米酒「すっぺったこっぺた」

 『天のつぶ』を50%削って醸した「純米大吟醸」は、華やかな香りが大吟醸ならでは。専務自慢の1本だ。また、本醸造無濾過生原酒「こでらんに」は無濾過酒の先駆け的存在。そのネーミングとともに人気を得て、蔵の定番商品になった。ちなみに「こでらんに」とは「こたえられない」の意味の方言。純米無濾過生原酒「さすけね」(さしつかえないの意)、純米無濾過生貯蔵酒「なじょすんべ」(どうしようの意)と続き、さらに原酒にごり酒「べろぬけ」(舌がぬける(ほどうまい))、大吟醸「すってんぺん」(てっぺんの意)など客からの要望もあって方言を銘柄にした商品が続々と登場している。その中でも一際インパクトがあるのが純米酒「すっぺったこっぺった」だ。「すっぺったこっぺった」とは「つべこべいわずに」という意味。辛口でスッキリとした飲み口のこの酒は、つべこべ言わずにまずは飲んでみろということか。クスッと笑いながら、ついつい飲んでみたくなる。

 各地で行なわれる酒の会などにも足を運び、手ごたえとともにやりがいを感じているという専務。目標を伺うと、「まずは、食用米でも酒造好適米に負けない酒を造ることでしょうか。でも、何よりも飲んでいただいた方に『おいしい』と言っていただける、『また飲みたい』と言っていただける酒を造ることが第一です」。会津錦のたゆまぬ努力は、一歩ずつ、確かに前に進む。

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