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新・酒蔵探訪 32 2014年8月

曙酒造合資会社


河沼郡会津坂下町字戌亥乙二番
Tel.0242-83-2065
https://akebono-syuzou.com/

▲鈴木孝教氏

 会津坂下町にある曙酒造には、今回4年ぶりにお邪魔した。東日本大震災の地震で大きな被害を受けた蔵は修繕や建て直しが行なわれ、4年前とは趣を変えていた。

 「あの日は瓶詰めを追え、ちょうど寛いでいたところでした」と、震災当日を振り返るのは、営業部長の肩書きで蔵を支える鈴木孝教さん。「大きな揺れだったので、とっさに積んであるビン詰後の酒を両手で押さえました。揺れは続くし、すぐ横で壁が落ちたり箱が散乱したりしている。けれど手を離したら自分自身が下敷きになってしまう恐れもあって、どうしようもなかったですね」。蔵の梁が外れてしまうほどの大きな揺れだった。「会津は被害が少なかったといわれますが、坂下はひどかったですね。すぐ隣の会津若松や喜多方に比べ、地震の被害が大きかった」。後片付けには従業員やOBが総出で当たり、その年の酒造りに間に合わせるべく修繕も行なった。その後、震災後2年目からは蔵の建て直しにも着手し、今、新装なった蔵は新たな時代を迎えるかのように落ち着いた佇まいを見せている。

▲蔵の内部

 震災はまた、蔵人の意識にも変化をもたらしたという。「震災後、さまざまな形で支援をいただき、私たちも何かしなければならないのではと思いました」。と孝教さん。「うちの得意先にも津波で流されてしまったところがありました。何もなくなった場所を実際に見てショックを受けましたし、その後、避難して無事だった酒屋さんと再会したときには涙が出ました。自分達よりもっと大変な目に遭った方も多い。何か少しでもできることがあればと思ったのです」。曙酒造では被害にあった酒をブレンドして「ハート天明」として販売、売上げを足長育英会に寄付したという。また、津波に遭った酒店のあった地を応援するための酒も販売している。「これまで、日本酒文化の継承といった視点では考えてきましたが、地元についてはあまり考えてこなかったように思います。震災は地元を見直す気持ち、そして感謝の気持ちを思い起こさせてくれました」。

 曙酒造では震災後、孝教さんの息子である孝市さんが杜氏として酒造りの中心を担うようになった。「杜氏というのは本来、酒造計画から酒造り、そして営業的な面まですべてに責任を負う立場だと思っています。そういう意味ではまだまだこれからですが、酒造りの部分はすっかり任せています」。孝市さんが杜氏となってから、日本酒ベースのヨーグルトリキュールや梅酒などの新製品も誕生している。「地元の若い人達との交流などを通し、さまざまな挑戦をしているようです。良い方向に進んでいると思います」と、孝教さんも見守る。

▲別撰 「一生青春 大吟醸」

 かつて、孝教さんは夫婦で酒造りを学び、初めて造った酒に「一生青春」と名づけた。いつまでも青春の心を忘れずに挑戦し続ける。そんな思いを込めた名だと伺った。その思いは、間違いなく孝市さんに引き継がれている。そんな「一生青春」シリーズの中で、別撰「一生青春 大吟醸」は、山田錦を40%まで精米して醸した鑑評会で金賞を受賞した自慢の味だ。

 「良きものはそのままに、変えるべきは変える」。曙酒造のホームページに綴られたこの言葉は、孝教さんら蔵人の思いだ。「時代が変わっても、常に皆さんにおいしいと言っていただける酒を造り続けたい」。震災を乗り越え、新たな世代の酒造りを始めた曙酒造。社員の平均年齢は32歳位と若い。まさに曙、夜明けを迎え、未来につながる新しい日々が始まっている。

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