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新・酒蔵探訪 34 2014年11月

合資会社白井酒造店


大沼郡会津美里町永井野字中町1862
Tel.0242-54-3022

▲蔵外観

  「会津」という地名は、3世紀頃、皇族の将軍、大彦命が北陸道から、その子である建沼河別命が東山道を遠征し合流したことから、「相津」と呼ばれたことに由来するという。そしてその場所は、会津の総鎮守として2,000年もの歴史を誇る旧会津高田町の伊佐須美神社であると伝えられる。伊佐須美神社のご神木は会津五桜の1つ「薄墨桜」。「あやめ祭り」や「お田植え祭り」なども行なわれ、多くの参拝客、観光客が訪れる。

 そんな伊佐須美神社から程近い国道401号線沿いに、板塀に松の木が懸かる趣ある外観を呈しているのが白井酒造店である。創業は明和2(1765)年と伝えられ、初代白井忠太氏が近くの油屋から分家したという。近くを流れる「宮川(鶴沼川)」から「宮川屋」の屋号を持つ。米どころ会津の米、そして明神ヶ岳の伏流水を用い、300年近く酒造りを続ける。銘柄の「萬代芳(ばんだいほう)」は5代目の泰三氏の時に誕生したもので、当初は「よろずよし」と読んでいたが、戦後、「ばんだいほう」という読み方に改めたものだという。蔵の建物は明治時代のものだが、東日本大震災でも被害はほとんどなかった。

 現在、蔵を仕切るのは9代目となる白井栄一さん。20年ほど前に蔵に戻り、さまざまな挑戦を重ねてきた。

▲白井栄一さん

  現在、白井酒造店の酒は、そのほとんどに地元産米を使っているが、これは地元の農家が白井酒造店との直接契約で作っている。「当時、地元ではコシヒカリが多く作られていたため、酒米を作ってくれるところが少なかったんです。何とか地元の米を手に入れるためにはどうしたら良いか考えていたときに、直接契約なら引き受けてくれるということで、五百万石の栽培をお願いするようになりました」と、栄一さん。地元産の米を使うことは、造りへのこだわりとともに、地産地消によって少しでも地域の活性化に繋がればという思いもあってのことだ。

 また、白井酒造店では、かつては越後杜氏が蔵に入り、その後南部杜氏に変わり今に至るが、その杜氏も高齢となり、今は造りの最初と最後に蔵に足を運ぶだけとなった。杜氏に代わり栄一さんが中心となって酒造りは進められる。栄一さんを支えるスタッフもまた、地元のスタッフだけだという。

 そして、独自の流通形態で販売される「風が吹く」銘柄を生み出したのも栄一さんだ。手間や時間のかかる山廃など、時期ごとに数種の酒がお目見えする「風が吹く」は、平成16年の登場以来、気鋭の酒として注目を集めている。

(左から)
萬代芳
純米酒 萬代芳
大吟醸 萬代芳

 一方、「萬代芳」は普通酒が半分以上を占める昔ながらの銘柄。町内での消費が多く、いかに地元に根付いた酒であるかを窺わせる。飲み口もやや甘口の昔ながらの味。ずっと飲み続けてくれる地元の人を思いながら、少しでも良い酒をと造り続けているという。ラベルもまた、懐かしさを感じさせる。

 「純米酒 萬代芳」は、地元産「五百万石」をスッキリと辛口に仕上げた酒。キレの良い味わいが楽しめる。また、「大吟醸 萬代芳」は兵庫県産山田錦を使用。華やかな香りと柔らかい口当り、喉越しの良さは大吟醸ならでは。

 地元に根付き、地元で愛され続ける「萬代芳」。その名の通り新しい挑戦で新たなファン層を広げる「風が吹く」。それぞれの酒に特長があり、それぞれの特長を知ってほしいと栄一さんは言う。特別なことは何もしていないと淡々と話す栄一さんだが、その真摯な酒造りは昨日より今日、今日より明日と、着実に歩を進めている。

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