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新・酒蔵探訪 35 2014年12月

合名会社大谷忠吉本店


白河市本町54
Tel.0248-23-2030
https://www.hakuyou.co.jp/

▲蔵外観

白河市の中心部に趣ある外観を呈している大谷忠吉本店。この蔵では明治12(1879)年の創業以来、地元の米、水、そして人にこだわる酒造りを行なっている。米は地元産、水は那須山系の伏流水が創業以来変わらぬ井戸に湧く。そして酒を造る側の蔵人と、その酒を飲んで蔵を支える客をもまた、蔵は大切にする。5代目となる大谷浩男専務は言う。「この蔵は長い年月、地元の米、水、人にこだわり続けてきました。この軸をぶらさないことが、この蔵の個性と言えるのかもしれません」。創業間もない頃から用いられている銘柄「白陽」は、白河の「白」と漢語で街を表わす「陽」を組み合わせ、また、白河を照らす「白河の太陽」を目指すという願いも込められているという。地元を大切に思う気持ちが伝わる名前である。

▲大谷浩男専務

 「白陽」と並び、近年人気となっているのが「登龍」である。「登龍門」のように「とうりゅう」と読むのではなく、「とりゅう」と読む。白河の方はご存知だろうが、白河高校では「地に伏す臥龍も、歳月を経てたくましく力を蓄え、雷を起こし雨を呼んで天に昇る」という意味を込め、「登龍」という言葉をモットーにし、文化祭は「登龍祭」、同窓会館は「登龍会館」と名づけられ、そして生徒は「登龍健児」と呼ばれてきたという。この銘柄もまた、白河の酒蔵ならではのものだ。

 この「登龍」を酒質の設計から全工程を手掛けているのが、大木英伸さんと裕史さんの兄弟だ。彼らが蔵に入って10年程になるが、まったくと言って良いほど知らなかった酒の世界に縁あって入り、そのおもしろさにのめりこんだ兄弟が試行錯誤を重ねて醸す「登龍」は、正にたくましく力を蓄えている。ラベルの文字も他人には委ねられないと、自ら納得が行く文字がかけるまで何枚も何枚も書いたのだという。そんな「登龍」のコンセプトは、しっかりした辛口。「料理に負けない酒を目指しています」と大谷専務。近年、食卓に上る料理の幅は広がり、中華料理など脂っこい料理も多い。そんな料理にも負けることのない、しっかりとした味を主張する酒を造りたいという。

▲登龍/白陽 純米吟醸 おりがらみ

 蔵では今年の造りから醸造アルコール添加を廃し、全量純米蔵となった。「時代の流れ、お客様のニーズから、自然にこうなった」と専務。地元産米へのこだわりは冒頭に紹介したが、ここでは地元で採れることを優先し、食用米である「チヨニシキ」での酒造りも行なう。「心白が少なく、粒も酒米に比べると小さいので精米などで苦労もありますが、その苦労もまた造り手の誉れとなるものです」。

 昨年誕生した「白陽 純米吟醸 原酒おりがらみ」は、そんな地元の米の旨みを最大限に味わえる1本。アルコール度数が17~18度と高めながら、ファンも多いという。アルコール度数が低めでさらりとした酒の人気の一方で、しっかりとした酒を支持する声も決して少なくないそうだ。

 2011年の東日本大震災直後、大谷忠吉本店には地元住民が列を作ったという。付近が断水する中で、蔵の井戸は枯れることがなかった。そこで蔵では店頭までホースを引き、誰でも水を汲めるようにした。その水を求める人々の列だった。「白陽」の銘柄を持つ蔵ならではのエピソードだ。

 明治からの蔵は、土蔵の壁が落ちるなどの被害があったが、柱や梁など建物の土台は地震の揺れに耐えた。そのたおやかさは、時代の流れに逆らうことなく常に地元に根を下ろす、大谷忠吉本店そのものの姿に重なるように思う。地元を愛し、地元に愛される酒がここにある。

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