新・酒蔵探訪 36 | 2015年1月
末廣酒造株式会社
大沼郡会津美里町字宮里81(博士蔵)
会津若松市日新町12-38(嘉永蔵)
https://www.sake-suehiro.jp/
▲嘉永蔵外観
「酒蔵探訪」の前シリーズで「末廣酒造」をご紹介したのは、2006年12月のことだった。ちょうど、7代目新城猪之吉氏が襲名したばかりのことで、またこの年は、全国新酒鑑評会で福島県が金賞受賞23場で初の全国1位に輝いた年であった。この全国1位の陰には、特に会津清酒のレベルアップを目指し、現在の「高品質清酒研究会」のもととなった「五社会」の存在がある。その「五社会」は先代社長が立ち上げ、その意志を継いだ現社長は、今や福島県酒造組合会長として福島の酒全体を率いている。特に2011年の東日本大震災以後は、被害を受けた県内の酒蔵や福島の酒の復興を第一に、忙しい毎日を送っている。
2011年3月11日、新城社長は福島県庁にいた。福島県ブランド認証産品の認定式に参加するためで、その足で東京出張、さらに韓国への出張も控えていたという。「蔵の被害自体は、何箇所か壁が落ちた程度でした。ただ、道路やガソリンの問題もあり、県内の物流はストップ状態。急ぎの納品は新潟経由で行なうなど、できる限りの方法で対応しました」。と、新城社長は震災直後を振り返る。
▲新城猪之吉社長
その後、全国各地で復興支援の販売会などが行なわれるようになり、末廣酒造は率先して参加したという。「県内での消費が見込めない中で、蔵は在庫をできるだけ販売しなければいけない。だから、各蔵にもできるだけ参加するように呼びかけました。私自身、京都や鹿児島まで足を運んだこともありました」。そんな復興支援の企画はまた、新たな販売ルートの開拓に繋がることもあった。「たまたま県外で酒を飲む機会があって、店に入ったら、偶然うちの酒が置いてあり、驚いたこともありました」。そういう出会いも大切にしていけたらと言う。
風評被害の払拭にも、組合全体で取り組む。震災後の4月8日に初の安全宣言を行なってから、間もなく4年となる今も酒、米、水の検査は定期的に行われ、もちろん一度も放射性物質が検出されたことはない。「それでも、県内の酒は震災前の状態に回復してはいません。検査もマスコミなどへの安全の発信も、これからも継続していかなければなりません」。
福島の酒の復興に尽力する新城社長だが、末廣酒造はその動きを牽引すべく、震災後、さらに魅力ある酒づくりを目指している。原料や造りに大きな変化はないが、より「旬」を大切にした商品を提供している。「和食に四季折々の旬があるように、酒にも旬があると思います。四季の料理に合う、特徴ある酒を提供できればと思っています」。酒が料理を引き立て、料理は酒を引き立てる。酒と食は相互に高めあう関係にあるという。
(左から)
初しぼり 純米吟醸生原酒
伝承山廃純米 末廣
ぷちぷち
梅ぷち
「初しぼり純米吟醸生原酒」は、文字通りその年、最初にしぼった純米吟醸酒だ。フレッシュな味わいの1品。2月からは厳寒期の純米吟醸を一切手を加えない「無濾過生原酒」も登場する。いずれも季節限定の人気商品だ。
また、この時期燗酒を楽しむなら、「伝承山廃純米 末廣」がおすすめだという。明治末期、山廃造りを始めた嘉儀金一郎氏が試験醸造を行なったのが末廣酒造の嘉永蔵。当時から伝えられる山廃造りは、バランスの良い酒を生む。ちょっと熱めの50℃位がおすすめだと新城社長。
微発泡酒「ぷちぷち」は、粗搾りしたお酒を瓶詰めし、瓶内発酵で炭酸ガスをそのまま閉じ込めたもの。梅酒をベースにした新商品「梅ぷち」ともに低アルコールで飲みやすく、女性の支持が高い。最近は海外でも人気を得ているという。
2013年1月、末廣酒造は日経プラス1で行なった「訪ねて楽しい日本酒の蔵元」アンケートで1位に輝いた。以来、団体だけでなく個人で蔵を訪ねてくる客の数が増えたという。「これからも、より魅力ある蔵としてファンを増やしたいと思っています」。2015年が「末広がり」の年となるよう、末廣酒造のさらなる躍進に期待したい。
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