新・酒蔵探訪 38 | 2015年3月
合名会社大木代吉本店
西白河郡矢吹町本町9
Tel.0248-42-2161
https://www.daikichi-sizengo.co.jp/
▲大木雄太社長(新店舗2Fにて)
東日本大震災から丸4年。「ここまで無我夢中でした」と話すのは、西白河郡矢吹町にある大木代吉本店の大木雄太社長。慶応元(1865)年創業、旧奥州街道沿いに建つ大木代吉本店では、東日本大震災で大小14ある蔵のうち5棟が全壊、他にも大規模半壊など大きな被害を受けた。「地震があったときは事務所におり、すぐに社員とともに中庭に出たのですが、私たちの目の前で蔵が倒壊していったのです」と、大木社長は震災当日を振り返り、表情を曇らせる。当時、蔵はその冬の仕込みをほぼ終えていた。倒壊した蔵の中は不思議なほど静かで、タンクに残ったもろみの発酵する音が聞こえ、その生命力に再建への決意を新たにした。亡失酒は約10,000ℓにも達し、販売も放射性物質の影響もあり、激減した。その後はつくりを優先しながらの改修工事を続け、震災から4年を経た今、まもなくその工事も一区切りできる状況になったという。「震災からずっと、酒のことと蔵のことだけを考え、やってきたという感じです」。
震災は社長の酒造りへの使命感と闘争心に火をつけ、背中を強く押したのである。
▲新しい店舗
酒造りはつくりからその後の商品管理までトータルで見ることが大切だと考え、さらにさまざまな部分を見直し、感性を研ぎ澄まし作業を進めた。「麹など、これまで職人の見た目や香り、味などで評価をしてきたものを数値化、分析することで、品質の向上や管理をするようにしました」。それにより、たとえば「こんにちは料理酒」は7段仕込みという独自の仕込み法で、旨み成分であるアミノ酸を大幅に増量することができたという。
また、飲酒用の日本酒は顧客満足度を高めることを目標にし、鮮度に着目した社長は、酒の〝フレッシュさ〟にこだわり、酒の温度管理も徹底する。これまでプラス3℃で行っていた貯蔵も、マイナス3℃、5℃で行う。また、通りに面した蔵の店舗でほとんどの商品を冷蔵庫に陳列しているのは、お酒ができてから、お客様が口にするまで、ベストの状態を保つ為。
この蔵の「こんにちは料理酒」は、今や全国にファンを持つ。以前にも増して専門性を高め、化学調味料に変わる調味料として愛用される他、〝飲む酒〟としても評価を受けている。東京では、全国の銘酒と並べ「こんにちは料理酒」をメニューに載せ、提供している店もあるという。
(左)こんにちは料理酒
(中)本醸造 さわやか自然郷 超辛口
(右)本醸造 さわやか自然郷
一方、「本醸造さわやか自然郷」は、現在福島県産の酒米「夢の香」と同じく福島県産の酵母で醸した、華やかな含み香を持ちながらさらりと飲める、文字通りさわやかなキレの良い酒だ。「本醸造さわやか自然郷 超辛口」とともに通好みの飲み飽きしない酒と評判だ。
蔵ではまた、震災前から検討していた酒の商品化も進めている。「日本酒と食とのマリアージュという観点で、食中酒のあり方を見直したいと思っています」と、現在は酸味や発泡をポイントに商品化を進めているという。
かねてより蔵が手掛けてきた自社田での米づくりは、震災の翌年再開した。震災当時、この地にとどまり、酒造りを続けることができるのか不安な時期もあった、と大木社長。「しかし、そんな時に『今だからできることがある。ピンチがチャンス』と言ってくださった方がいました。その言葉に背中を押していただき、後はがむしゃらにここまで来たという感じです」。改修工事を終えた店舗の2階では今後、社長のテーマでもある『食と酒のマリアージュ』に関するイベントなども企画していきたいという。古い蔵の梁や柱が、真新しい壁と美しく調和する。ここに新生、大木代吉本店の新しい歴史が始まる。
※掲載されている情報は取材日時点での情報であり、掲載情報と現在の情報が異なる場合がございます。予めご了承下さい。