新・酒蔵探訪 39 | 2015年4月
太平桜酒造合資会社
いわき市常磐下湯長谷町町下92番地
Tel.0246-43-2053
http://www.sake-iwaki.com/
▲城下町の風情漂う蔵の外観
2011年3月11日。前回太平桜酒造の酒蔵を訪ねたのは、東日本大震災当日だった。取材を終え蔵を後にして間もなく、あの大震災が東北を襲った。震度6弱の揺れに見舞われた酒蔵では、江戸時代から手を入れながら使ってきた蔵が壁が崩れるなど大きな被害を受けた。また、タンクが傾いたり瓶が割れたりして、この年仕込んだ酒の8割が商品化が不可能になったという。「水が止まったこともあり、当初は片付けもままならない状況でした」と、大平社長は当時を振り返る。「また、私は消防団に入っているので、震災翌日からは給水や支援物資の配布などで町内の避難所などを回ったのですが、そこで改めてこの震災の現実を目の当たりにしたように想います」。混乱した避難所や給水車に並ぶ人々の様子は、これまでテレビなどで見たことがあっても、まさか身近に起きるとは思ってもいなかったという。
▲大平正志社長
いわきではまた、4月11日の地震も各地に大きな被害をもたらした。観光の中心であるハワイアンズや湯本温泉の旅館も休業を余儀なくされ、酒蔵には商品の返品も続いたという。「幸いうちは9割が地元で飲まれているので、風評による直接的な影響はあまりありませんでした。ただ、県としては大きなダメージがありました。そんな中で、酒造組合の対応は早かったと思います。早い時期から原料である米や商品の検査を行い、安全宣言を出しました。また、他県からの応援もたくさんいただきました」。太平桜でも、市や観光協会などの復興事業の一環として地元産米の純米酒を作り、それは震災から4年経つ今も続いている。福島の酒は、世界一安全な米でつくっているという自負もあると大平社長は言う。
太平桜は、〝地元でかわいがられる酒〟を目指している。地産地消をモットーに、手間を惜しまずていねいに醸す。「純米酒 いわきろまん」は福島県産酒酒造好適米「夢の香」と「うつくしま夢酵母」で仕込んだやさしい味わいの酒。やや甘口ながら重さを感じさせず、スッキリとした後味が人気だ。「夢の香 純米原酒」も、「夢の香」と「うつくしま夢酵母」で仕込んだ酒。穏やかな香りとしっかりした味わいが純米酒らしい。蔵では他に大吟醸や純米大吟醸、さらに地元の観光地やまつり、伝説にちなんだ商品も出している。
▲純米酒 いわきろまん/夢の香 純米原酒
震災から4年を経た今、蔵は改修工事も終え、穏やかな春を迎えた。しかし、農業や漁業など地元の復興は道半ばであり、湯本温泉にも活気は戻っていない。「震災後は宴会がほとんどなくなりました。やはり、地元として湯本温泉には元気になってほしいと思います」。地元の蔵として震災前と変わらぬ酒造りを地道に続けつつ、地域の復興とその先を目指す。
以前もご紹介したが、蔵のある下湯長谷町にはかつて、平藩から分家した湯長谷藩があり、蔵近くの磐崎中学校には藩の館があったという。昨年公開された映画「超高速!参勤交代」は、正にこの湯長谷藩の参勤交代を題材にしたものだ。いわき市では映画に関連した地域おこしなども行われ話題になった。映画の設定は享保20(1735)年。太平桜の創業は享保10(1725)年、藩主の命で酒造りを始めたというから、映画に登場した藩主・内藤政醇らはこの蔵の酒を飲んだに違いない。
「太平の桜を愛でて酒を酌み」。桜咲くうららかな春の日に酒を酌み交わす。そんなのどかな風景がこれからもずっと続くことこそ、時代を問わず誰もが願うことではないだろうか。
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