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新・酒蔵探訪 3 2012年1月

名倉山酒造株式会社


会津若松市千石町2番46号
Tel.0242-22-0844
https://nagurayama.jp/

▲松本健男社長

 名倉山酒造。東北鑑評会で17年連続受賞するなど、東北はもとより全国で高い評価を受けているこの蔵は、会津魂を今に伝える志の高い蔵である。

 「酒の味というのは、数値だけでは思い通りにならないものです。そこで、〝つくりのスローガン〟を決めたのです」と話すのは、4代目の松本健男社長。〝つくりのスローガン〟とは、蔵人が自分たちがどういう酒を目指すのか、共通の認識として持とうというものだという。そのスローガンは『杜氏と蔵人が醸しだすきれいな甘さ』。蔵人一人ひとりがこのスローガンに向け、それぞれの持ち場で何をすべきかを考え、きちんと積み重ねていく。それが名倉山の酒づくりだ。

 平成20年名倉山は、南部杜氏自醸清酒鑑評会で首席を受賞、この年と翌21年には福島県の蔵が1位から3位までを独占している。また、全国新酒鑑評会での金賞受賞蔵数も毎年1、2を争う。「福島県の蔵が鑑評会で優秀な成績を収めるのは必然です。それぞれの蔵元の努力もさることながら、福島県ハイテクプラザの技術研究や開発などが、蔵元の技を科学的に支援してくれていて、福島県の酒は全国的に勝てる要因となっています」。県全体として旨い酒を作っていこうという団結が福島の酒全体の質を高めてきたのだと、松本社長は言う。「うちは、県内の他のどの蔵よりハイテクプラザの会津若松技術支援センターに近い。だから成績がいいんですよ」と笑うが、蔵人が一丸となって技を凝らし醸した名倉山が、会津の酒、そして福島の酒を代表する銘柄の一つであり、他を牽引する役割を担っていることは間違いない。

 そんな名倉山酒造で人気の銘柄の一つが「月弓(げっきゅう)」だ。「月弓」とは、白虎隊、鶴ヶ城など一般的に会津を象徴するイメージから発想を膨らませたという、優しさやロマンを感じさせる斬新なネーミング。細い三日月をデザインしたラベルもすっかりおなじみになっている。黒のラベルの濃酵な「純米・月弓」と、白いラベルの淡麗な「純米吟醸・月弓かほり」。2つの「月弓」は、見た目も飲み口も対照的だ。

 鑑評会出品に向け、最高の原料、技、条件で作られた「名倉山 大吟醸」は、まさに蔵を代表する酒と言える。さらに、斬新なラベルが目を引くしぼりたて生原酒「名旬」や、昨春の鶴ヶ城の改築に合わせ発売された「赤瓦」など、日本酒党ならずとも手にし口にしたい商品が揃う。

 「華道、茶道と同じように、日本酒も『酒道』という文化だと思います」。松本社長は、料理との食べ合わせや器など、日本酒を楽しむさまざまな提案もしていきたいと話す。「たとえば今日はこの酒を飲みたいから肴は何がいいだろうかとか、料理を工夫したり、器を選んだり。日本酒は手を加えれば手を加えるだけ楽しく、美味しく飲むことができます」。

 3月の震災発生時、松本社長は福島県庁で福島県のブランド認証の授与式に出席していた。蔵は、壁が多少落ちるなどしたものの、大きな損害はなかったという。原発事故の風評による観光客の減少などの影響は受けているものの、社長は前向きである。「そもそも米を精白して用いる酒は、放射性物質の影響は受けにくいものです。もちろん水も含め、検査はきちんと受け、安全性は証明されています。後は、安全だということを理解していただけるよう、努力したいと思っています」。

▲大吟醸/月弓/月弓かほり/名句/赤瓦

 鶴ヶ城の赤瓦は、凍害を克服する雪国ならではの知恵で誕生したものだという。名倉山もまた、会津の風土に合わせて研鑽を積み、会津を代表する酒蔵となった。連綿と歴史を繋ぎ、積み重ねてきた会津のように、この酒蔵もまた、末永く酒を醸し続け、やがて会津の歴史の一部となるに違いない。

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