新・酒蔵探訪 41 | 2015年6月
豊国酒造合資会社
河沼郡会津坂下町字市中一番甲3554
Tel.0242-83-2521
http://aizu-toyokuni.com/
▲蔵の外観
前回、会津坂下町の豊国酒造を訪ねたのは2010年の12月。東日本大震災の3ヶ月前のことだった。ちょうど造りの最中で、タンクには出番を待つ酒が静かに息づいていた。震災によって蔵の壁は崩落し、蔵の中には酒やもろみ、そして瓶詰めされた商品が散乱したという。「比較的被害が少ないといわれる会津ですが、会津坂下町は地震の被害が大きかったですね」と震災を振り返る高久禎也社長。「当日は会津若松にいて、急いで蔵に戻ろうと思ったのですが、道路が混んでいてなかなか着かなかったのを覚えています」。
夏の間に蔵の補修なども済ませ、その年の造りからほぼ通常の造りに戻ったという。しかし、明治時代に建てられたという母屋には、4年経った今も未だに壁の落ちた跡などが残り、震災の傷跡が見える。また、蔵では震災後は原発事故の風評を払しょくするため、今も水から製品、酒粕に至るまで、全てについて放射性物質の検査を行っている。
▲高久禎也社長
豊国酒造の酒造りは、「基本に忠実に手抜きをしない」がモットー。丁寧に仕込んだ酒を全て「ふなしぼり」で搾る。また、一方で酒造りをデータ化し、しっかり分析する。緻密かつ着実な酒造りこそ、豊国酒造の真骨頂だ。
5月20日、平成26年酒造年度(26年7月~27年6月)の全国新酒鑑評会の結果が発表され、福島県は24銘柄が金賞を受賞、3年連続の金賞受賞数「日本一」を達成した。豊国酒造は今年で8年連続で金賞を受賞、県全体の好成績にも大きく貢献している。「福島県はハイテクプラザの支援のもと、県を挙げて取り組んできたことが、この成績に繋がったのだと思います」。とはいえ、8年連続での金賞受賞は県内でも数蔵で、その陰には蔵の努力があることは間違いない。
金賞受賞酒や大吟醸に冠される「學十郎」は創業者の名前で、文久2(1862)年の創業当時から続く蔵の歴史を思わせる。大吟醸は山田錦の原料米を40%まで精米し長期低温発酵させて醸す。芳醇な香りと繊細な味わいを持つ贅沢な酒だ。
純米大吟醸「夫婦さくら」も人気が高い。先代の跡を継いだ社長は、朋子夫人とともに県酒造組合の清酒アカデミーを受講、杜氏の退職後は自らが杜氏として夫婦2人で酒造りに取り組んできた。まろやかな味わいの「夫婦さくら」は、まさに夫婦の思いが込められた酒といえよう。
吟醸酒「真実(しんじつ)」は、長女の名前から命名したという。「I.W.C2015ロンドン」SAKE部門で「SILVER賞」を受賞している。さわやかな香りと口当たりが特長だ。さらに「ばんげぼんげ」は地元会津産の「夢の香」を使用した純米吟醸。「ばんげぼんげ」とは、「坂下よいとこ」を意味する造語だという。
(左から)
大吟醸 學十郎
純米大吟醸 夫婦さくら
吟醸酒 真実
純米吟醸 ばんげぼんげ
高久社長は全国新酒鑑評会の好成績も喜んでばかりはいられないという。「ここ数年、他県の酒がどんどん実力をつけています。うかうかしていると「日本一」の座はすぐに奪われてしまう」。だから、現状に満足することなく、努力をしていかなければならないという。社長自身、今ある酒の質の向上、そして市場にあわせた商品開発など研究を重ねている。
また、特に震災後は輸出にも取り組んでいるという。「東日本大震災後の補助事業として、ジャパンブランドの海外進出が積極的に進められています。海外では和食も人気があり、日本酒への注目も高まっています」。商品開発も含めた展開を考えているという。
震災から4年。落ち着きを取り戻した蔵では以前と変わらぬ酒造りが行われている。日々の丁寧な仕事は、確実な明日を拓く。高久社長の話を聞き、そんな思いを持った。
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